研究課題/領域番号 |
18K05672
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
伊藤 克彦 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80725812)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カイコ / 卵致死 / 幼虫致死 / ポジショナルクローニング / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
カイコでは致死に関わる突然変異が数多く報告されているが、その原因遺伝子が明らかになった例は少ない。そこで本研究では、「卵致死」に関わるl-19遺伝子、「幼虫致死(孵化直後)」に関わるl-nl遺伝子、そして「幼虫致死(脱皮不全)」に関わるnm-d遺伝子という3つの異なる時期の致死に関わる遺伝子の単離に取り組み、各遺伝子産物が生体内のどのような反応経路に関わっているのかを明らかにすることを目的としている。そして、その生命現象が害虫防除のターゲットや哺乳類の遺伝病のモデルとして利用可能かを考察する。 初年度は、各遺伝子のポジショナルクローニングによる候補遺伝子のスクリーニングを進めるとともに、これらの遺伝子解析の基盤となるゲノム編集技術(CRISPR/Cas9システム)の立ち上げを行った。その結果、l-19遺伝子に関しては、ポジショナルクローニングによりゲノム上の候補領域を僅か200 kb内に限定することに成功し、さらにその中には遺伝子が8個存在することを突き止めた。nm-d遺伝子に関しても同手法により、ゲノム上の候補領域を約3 Mb内に絞り込むことに成功した。さらにl-19遺伝子に関しては、8個の遺伝子の中で標準系統と変異系統間で塩基配列およびアミノ酸に置換が存在する遺伝子を1つ発見した。加えて、CRISPR/Cas9システムの立ち上げに成功し、すでに単離していたl-nl候補遺伝子が、確実に「幼虫致死(孵化直後)」の表現型に関わることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成30-31年度)の研究では、まだ候補遺伝子が明らかになっていないl-19遺伝子とnm-d遺伝子については、ポジショナルクローニングによる両候補遺伝子の特定を、また、すでに候補遺伝子の特定に成功しているl-nl遺伝子については、ゲノム編集技術による表現型の調査を計画していた。 実際の研究成果としては、l-19遺伝子については、ポジショナルクローニングによって絞り込んだ領域内から1つの有力な候補遺伝子の特定に成功した。また、nm-d遺伝子については、候補遺伝子の特定には至らなかったが、ゲノム上候補領域を当初の約6 Mb内から約3 Mb内に絞り込むことに成功した。一方、l-nl遺伝子に関しては、立ち上げに成功したCRISPR/Cas9システムを使って、l-nl候補遺伝子が確実に「幼虫致死(孵化直後)」の表現型に関わることを明らかにした。これらの成果は、概ね当初の計画通りと言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果を踏まえて2年目(平成31-32年度)では、有力な候補遺伝子の単離に成功したl-19遺伝子に関しては、初年度に確立したCRISPR/Cas9システムを用いて、候補遺伝子の証明実験を進める。またl-nl遺伝子については、明らかにした原因遺伝子産物が生体内でどのような役割を担っているのかを調査するため、遺伝子および遺伝子産物の詳細な発現組織および発現時期の特定を行う。そのために、まずはl-nl遺伝子産物を認識する抗体を作製する計画である。一方、まだ候補遺伝子の特定と機能証明に至っていないnm-d遺伝子に関しては、引き続きポジショナルクローニングによる遺伝子の単離を進める。
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