カイコでは致死に関わる突然変異が数多く報告されているが、その原因遺伝子が明らかになった例は少ない。本研究では、異なる3つの時期の致死に関わる遺伝子、すなわち、「卵致死」に関わるl-19遺伝子、「幼虫致死(孵化直後)」に関わるl-nl遺伝子、そして「幼虫致死(脱皮不全)」に関わるnm-d遺伝子の単離に取り組み、カイコの生育初期における重要な遺伝子産物とそれらが関わる生命現象を明らかにすることを目的としている。 l-19遺伝子については、これまでkinesin-like protein costaをコードする有力な候補遺伝子の特定に成功している。昨年度は、ゲノム編集による候補遺伝子の機能証明に取り組んだ。その結果、候補遺伝子をノックアウトしたカイコは、確かに「卵致死」の表現型を示した。しかしながら、突然変異系統が反転期と呼ばれる胚発生初期で致死するのに対し、ノックアウト系統は催青期と呼ばれる胚発生後期で致死した。両者で卵致死の時期が異なったことから、候補遺伝子が本当に目的のl-19遺伝子であるのかは判断できなかった。 l-nl遺伝子については、これまでゲノム編集により、nose resistant to fluoxetine protein 6-likeをコードする遺伝子がl-nlの表現型に関わっていることを明らかにしている。昨年度は、突然変異系統と候補遺伝子ノックアウト系統の相補性検定を行い、両者の対立関係を調査した。その結果、両系統の交配区でl-nlの表現型を示す個体が得られたため、候補遺伝子が間違いなくl-nl遺伝子であることを証明できた。 nm-d遺伝子については、カイコゲノム上の2.7 Mbに絞り込んだ候補領域内に存在する予測遺伝子について、遺伝子データベースを駆使した機能予測を行った。その結果、脱皮変態に関わる可能性が示唆されるestrogen-regulated growth inhibitors like proteinsをコードする遺伝子を発見した。
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