研究課題/領域番号 |
18K05674
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岩見 雅史 金沢大学, 生命理工学系, 教授 (40193768)
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研究分担者 |
木矢 剛智 金沢大学, 生命理工学系, 准教授 (90532309)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カイコガ / 発生・分化 / 脱皮・変態 / ホルモン / 神経分泌 |
研究実績の概要 |
昆虫の幼虫は各齢において十分なサイズに達してから次の齢へと脱皮し,栄養不足などにより成長が遅れた場合には脱皮のタイミングも遅延する。しかし,発生のタイミングが内外の環境によって適応的に制御される機構の全貌は未だに不明である。本研究は,昆虫の発生タイミングが個体の内外の環境に対して適応的に制御される仕組みを,前胸腺刺激ホルモン(PTTH)細胞の生理特性の変化に着目して解き明かすことを目的としている。 今年度はPTTH細胞の神経活動を制御するシグナル因子の遺伝学的・生理学的解析を行った。当グループは以前にシングルセルRNA-Seqを行い,PTTH細胞選択的に色素拡散ホルモン(PDF)受容体が発現していることを見出していた。また,PTTH細胞は朝に良く活動し,夕方には活動が低下するといった概日制御があることを見出していた。PDFは朝を知らせるシグナル因子であることがショウジョウバエを用いた研究で明らかとなっていたことから,PTTH細胞の活動性をPDFが概日制御すると仮説を立て研究を進めている。 本仮説の検討を目的に, PDFおよびPDF受容体のノックアウト系統をCRISPR/Cas9によって作出した。PDFノックアウトのホモ系統は生存可能で,脱皮回数の減少などの大きな発生プログラムの障害は認められなかった。しかし発生を詳細に解析したところ,野生型と比較して,幼虫の途中で脱皮タイミングが少しずつ遅延し,結果的に羽化が数日遅延するという表現型や体重が減少するという表現型があることを見出した。さらにPDFノックアウトの遺伝的背景においてPTTH細胞特異的にGCaMP6fを発現する遺伝子組換えカイコを作出し,神経活動の概日リズムが失われることを見出した。これは我々の仮説が正しいことを支持する結果であると考えられる。現在,PDF受容体のノックアウト系統の表現型の解析を開始したところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最大目標であるPTTH細胞の神経活動を制御するシグナル系としてPDFシグナル経路を候補として同定し,PDFシグナル経路のノックアウトによって仮説を検証した。その結果,PDFノックアウト系統では発生遅延が起こることや体重が減少すること,PTTH細胞の神経活動の概日リズムが消失することを見出した。これらの結果は,PDFを介したシグナル経路が発生タイミングの制御に重要な役割を果たすことを示しており,申請者らの仮説を支持するものである。以上の点から,研究はおおむね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
PDFノックアウト系統で認められた表現型がPDF受容体のノックアウト系統でも同様に認められるかを確認することで,我々の仮説の更なる検証を進める。可能であればPDF受容体ノックアウトの遺伝的背景において,PTTH細胞にGCaMP6fを発現する遺伝子組換えカイコを作出し,神経活動の概日リズムへの影響を調べる予定である。 これまでのデータが十分に蓄積されたこと,本研究課題が最終年度となることから,論文として出版することも念頭に置いて研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの蔓延により,予定していた学会発表がオンライン開催となったことや,カイコの飼育に必要な餌やジェノタイピングに用いる試薬を節約するなどした結果,少額の次年度使用が発生した。これは予想外の出来事による旅費の余剰や,餌や試薬の購入タイミングによるものである。次年度の予算と合わせて計画通り使用する予定である。
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