研究課題/領域番号 |
18K05675
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
早川 徹 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 助教 (30313555)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Cry46Ab toxin / Bacillus thuringiensis / Mosquito larvae / single-channel解析 |
研究実績の概要 |
Cry46Abはヒト白血病ガン細胞に対する細胞損傷活性とアカイエカ幼虫に対する殺虫活性を併せ持つトキシンである。また他の殺蚊Cryトキシン(Cry4Aaや11Aa、11Baなど)と混合することで、アカイエカ幼虫に対する殺虫活性が顕著に増強(2倍~5倍)され、持続利用可能な蚊防除システムに寄与する新しい微生物資材として期待される。殺虫活性の増強は作用機構が異なるトキシンを混合した結果と考えられ、Cry46Abの作用機構を解明すること及び他のCryトキシンとの比較研究が喫緊の課題となっている。 本年度はCry46Abの作用機構の中心を構成すると考えられる小孔形成について電気生理学的な解析を進めた。実験では大豆由来のリン脂質(アゾレクチン)を用いて人工平面膜を作製し、そこにトリプシンで活性化させた組換えCry46Abを加えて小孔を形成させた。その結果、イオンチャネルの様に小孔の開状態と閉状態の間を遷移する膜電流が観察され、最終的に3種類のバッファー(150 mM KCl、NaCl、CaCl2)条件下におけるシングルチャネルコンダクタンスを求めることに成功した。また非対称なバッファー条件下で行ったシングルチャネル解析の結果から、Cry46Abチャネルがカチオン選択的であることが明らかになり、K+とCl-の透過比(PK/PCl)は約4と見積もられた。またCry46Abチャネルが透過させるカチオンはK+ > Na+、K+ > Ca2+、Ca2+ > Na+であることが明らかになった。実施予定のCry4Aaや11Aa、11Baについても同様の解析が進めば、Cry46Abと他の殺蚊Cryトキシン間における作用機構上の差異も明らかになり、殺虫Cryトキシンの作用機構、さらには殺虫活性の増強につながる因子の特定に寄与すると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一目標は新しい殺蚊Cry46Abトキシンの作用機構、特にCry46Abの小孔形成メカニズムを解明することである。これに関して本年度は主にCry46Abが人工平面膜上に形成する小孔の電気生理的な解析を進め、その性状のいくつか(イオン選択性)を明らかにすることができた。 一方、小孔形成と殺虫活性の関連性については明らかになったとは言えず、比較研究に用いる既知の殺蚊Cryトキシン(Cry4Aa及び11Aa, 11Ba)についても同様の解析を進める必要があった。本年度はこれら組換えトキシンの調製条件の最適化に時間がかかり、具体的な解析を行うまでに至らなかったが、現時点で問題はほぼ解決できており、次の段階に進める準備も整った。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 3種類の殺蚊Cryトキシン(Cry4Aa及び11Aa, 11Ba)について、本年度行ったCry46Abと同様な解析を行い、これらが人工平面膜上に形成する小孔の性質を明らかにする。Cry46Abも含めた比較を進めることで、トキシンが標的細胞膜上に形成する小孔の性質と殺虫活性の関連性、そして殺虫活性助長効果との関連性を明らかにする。 (2) Cry46Abが形成する小孔の性質、特にイオン選択性をコントロールする技術の開発を始める。Cry46Abの膜貫入部位は、構造的な類似性から大まかに特定可能であるため、その領域を標的とする変異導入解析を行い、作製した変異体が形成する小孔についても電気生理的な解析を始める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では新しい殺蚊トキシンCry46Ab以外にも、既知の殺蚊Cryトキシン(Cry4Aa及び11Aa, 11Ba)が形成する小孔の性状を調査する。しかし組換えCry4Aa及び11Aa, 11Baの調製において、Cry46Abと同様の手法では収量が低くなるという問題が生じた。次年度使用が生じた理由は、これら組換えトキシンの調製方法を最適化するのに時間がかかったためで、現時点でその問題もほぼ解決している。本年度の残額は当初の予定通り、組換えCry4Aa及び11Aa, 11Baが形成する小孔の電気生理学的な解析に必要な消耗品を購うために使用する。
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