研究課題
沖縄各地の遺跡より発掘されるジュゴン骨から古代DNAを抽出し、遺跡時代から近代における遺伝的多様性の推定を目的とする。本年度は現地の研究協力者と協議の結果、沖縄県東岸の平敷屋トウバル遺跡から出土した骨を対象に、各部の骨から古代DNAがどういった状態でどの程度抽出できるか、DNA抽出が可能であった試料は遺伝的な多様性をどの程度もちそうか、に関して 試験・分析を行った。対象とした平敷屋トウバル遺跡は、貝塚時代からグスク時代における遺跡で、沖縄本島では最も遺跡ジュゴン骨が発掘された場所でもある。今回は古代DNAが残存してる可能性が高いとされている硬質部の耳包骨1点、肩甲骨1点の他に、頭骨や耳包骨よりも比較的多く発掘される肋骨片8点、計10点の骨試料を対象に実験を行なった。DNA抽出は当研究室で古人骨を対象とする際と同様の方法を用い、抽出DNAの評価には通常のPCR法とKakuda et al. 2016で設計したAPLP法(Amplified Fragment Length Polymorphism)を応用し用いた。結果として、硬質の耳包骨をはじめ、肋骨の1点を除く9試料から、通常のPCR法とAPLP法で50bp-90bp程度を増幅可能な古代DNAが抽出できた。また、抽出できた試料における多様性をこれまで公表されている世界各国のジュゴンのミトコンドリアDNAデータとAPLP法の結果にて比較したところ、少なくともフィリピンを除く東南アジアの集団とは異なるSNPをいくつかもつ、という結果が得られた。抽出できたDNAは、ミトコンドリアレベルでは次世代シーケンサー(NGS)分析によってさらに詳細な結果が得られる可能性が高く、現在NGS分析の準備を進めている。
3: やや遅れている
当初の計画では遺跡骨からのDNA抽出後、APLP法によるDNAの状態評価と簡易的な多型性分析を進め、速やかにNGSを用いた分析を並行して行う予定であったが、これまで公表されている他国に生息するジュゴンDNA情報の偏りとジュゴンDNA分析に則したAPLPシステムの構築に予想以上に時間がかかってしまった。その一方で、DNAの残存はあまり期待できないであろうと考えていた肋骨試料からもある程度の古代DNAが抽出できることが判明したため、これまでの予想よりも多くの試料にアプローチできる可能性が得られた。また、現地にてミーティングを行った際に研究協力者からの伝により、本研究申請時にはアクセスをできていなかった今帰仁町教育委員会(遺跡ジュゴン骨を多数所蔵)からも賛同を得られ、今後の分析に協力をいただくことになった。NGS分析に関しては、2019年度より研究協力者の助力を得て速やかに分析を進めるため、進捗の遅れを取り戻せると確信している。
2018年度の分析で今後のNGSによる分析の方向性が得られてきたため、NGS分析を行うための実験準備と態勢を現在行なっている。これまでに得られた古代DNAのNGS分析を進めると同時に、他遺跡より発掘された骨からDNA抽出とその評価を進め、より多くのDNAデータ取得と遺跡内、遺跡間での多様性分析を進める。NGS分析に関しては一定期間、研究協力者の元に出向し、データの取得と分析のノウハウを教示いただき分析を進める。
次年度使用額の大半の額がNGSデータ分析用のパーソナルコンピューター(PC)と周辺設備(ディスプレイやキーボードなど)の購入費用として計上していたものである。2018年度の研究において、計上のPCをフルに活用する状況まで至らなかったため、よりバージョンアップした機種の登場する次年度にPCを購入予定である。PC購入費用以外の差額は同じくNGS実験消耗品にあたり、これらも次年度の当該費用として充てる予定である。
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