本研究は沖縄各地の遺跡より発掘されるジュゴン骨から古代DNAを抽出し、遺跡時代から近代における遺伝的多様性の推定を目的とした。 初年度は沖縄県東岸の遺跡から出土した骨を対象に予備的分析を行った。耳包骨や肋骨片など、計10点の骨試料を対象に実験を行なった結果、9点からAPLP法等で50bp-90bp程度が増幅可能な古代DNAを抽出できた。本試料を、これまで公表されている本種のミトコンドリアDNAデータとAPLP法の結果で比較したところ、少なくともフィリピンを除く東南アジアの集団とは異なるSNPをいくつかもつ、という結果が得られた。 次年度では、初年度に抽出されたDNAをミトコンドリアレベルで次世代シーケンサー(NGS)分析を試みた。各試料のライブラリの作成し、NGSを用いたショットガン・シークエンスを進めた。結果として、初年度実施した実験においては9試料から50bp-90bp程度の増幅は見られたが、次年度では対象とするミトコドリア由来の配列は得られたかが、1から数リードとごくわずかであり、詳細な分析を進めることができなかった。対象由来のDNA回収量が予想よりも少なかったことが、ショットガン・シークエンスでは分析が難しかった可能性として最も高いと考えられた。 よって最終年度では対象とする古代DNAの濃縮を行うため、良好なジュゴンDNAの獲得を行い、濃縮処理のための実験を進めたが、DNA抽出用試料の入手まで時間を要したこと、昨年発生した新型コロナウイルスの影響から試薬・消耗品等が枯渇していたことなどから実験が大幅に遅れ、現在ようやく古代DNAの濃縮処理に必要な試薬が完成しつつある。
今後、本年度からの研究課題では、ジュゴンのゲノムデータ取得と利用を目標としているため、DNA濃縮試薬の完成とともにNGSによる詳細な分析の実施ができると考える。
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