研究課題/領域番号 |
18K05691
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
多田 昇弘 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 先任准教授 (50338315)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マウス / 初期胚 / 真空乾燥 / 常温保存 / トレハロース / CRISPR/Cas9 / 電気穿孔法 / バイオリソース |
研究実績の概要 |
遺伝子改変マウスのような貴重な遺伝資源を保存するための方法として凍結保存に代わり得るような生殖機能細胞を常温で保存できる新規な真空乾燥・常温保存法を開発するために、本研究を実施する。 本研究では、乾燥保護物質としてトレハロースに着目し、トレハロースを細胞内に取り込むことができるノックインマウスの作製を試みた。トレハロースは、乾燥に強い耐性を示すネムリユスリカの幼虫の体内(細胞内)に乾燥時に特異的に蓄積されており、トレハロースが乾燥時に細胞に対して高い生体成分保護機能を有していることがわかっている。そこで、マウス初期胚でもトレハロースによる乾燥耐性が獲得できるかどうかを確認することとした。しかし、トレハロースは、細胞膜を通過できないため、生体成分保護機能を細胞内で発揮させることができない。トレハロースのような糖が細胞膜を通過するためには、トランスポーターと呼ばれる膜蛋白質が介在することが知られている。そこで、トレハローストランスポーター1(Tret1)を初期胚の細胞膜で発現するノックインマウスの作製を試みた。ノックインマウス作製には、CRISPR/Cas9によるゲノム編集を適用し、ドナーベクター(CAG promoter-PvTret1-IRES2-AcGFP1; CTIG)をROSA26遺伝子座のセーフハーバー領域に対するsgRNA及びCas9蛋白質と共にマウス1-細胞期卵の細胞質内に顕微注入した。顕微注入後、生存していた受精卵268個をレシピエントマウスの卵管に移植したところ54匹(20%)の産仔が得られた。これらの産仔は、離乳後、尻尾よりDNAを抽出し、PCRによる解析を行ったところ、ROSA26遺伝子座のセーフハーバー領域にドナーベクターがノックインされていると思われるマウスが5匹(9%)得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究遂行の時期に動物実験施設の改修工事があったため、施設が利用できず、一時的に研究が中断した時期があった。そのため、ノックインマウスの作製が遅れてしまった。また、ROSA26遺伝子座にドナーベクター(CAG promoter-PvTret1-IRES2-AcGFP1)をノックインしたマウスを作製するのに長時間を要し、5匹のノックインマウスが作製できたが、これらのマウスについてドナーベクターの伝達性を確認するために、繁殖を行っているが、解析するに充分な仔マウスが得られていない。更に、5匹のノックインマウスのゲノムについてPCRによる解析を行っているが、今だ、インタクトなベクターをROSA26遺伝子座のセーフハーバー領域にノックインしたマウスの同定までには至っていない。 一方、ノックインマウス作製を行っていたため、もう一つのトレハロースの細胞内への取り込み方法として電気的穿孔法(エレクトロポレーション法)をマウス初期胚で試みることも動物実験施設の改修工事があったため、着手できなかった。従って、トレハロースを取り込んだノックインマウスの初期胚及び電気的穿孔法によって得られた初期胚の真空乾燥・常温保存後の生存性も確認することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
ROSA26遺伝子座セーフハーバー領域のsgRNA, Cas9蛋白質及びドナーベクター(CAG promoter-PvTret1-IRES2-AcGFP1; CTIG)の1細胞期卵細胞質への顕微注入あるいは電気穿孔法(エレクトロポレーション)によりノックインマウス(ROSA26-CTIG-KI)を作製後、野生型のマウスと交配させることにより繁殖を行い、F2世代で遺伝的にホモのマウスを得る。これらのマウス由来の卵子及び初期胚(2細胞期胚、桑実期胚、胚盤胞)についてGFP発現を指標にして、割球の細胞膜でのトレハローストランスポーターの発現を確認する。その後、トレハロース及び抗酸化剤(エピカテキン、アスコルビン酸)あるいは3-O-Methyl-D-Glucose等を含むPB1, M2, Tris-EGTA及びmCZB-hepesを保存液として、これらの保存液にROSA26-CTIGノックインマウス由来卵子及び初期胚を浸漬し、マイクロチューブに移した後、デシケーター内で真空乾燥・常温保存後、復水させることにより、これらの卵子及び初期胚の生存性を確認する。一方、エレクトロポレーションを卵子及び初期胚に実施した後、rhodamine-dextran (3 kDa)を含む培養液に移し、蛍光顕微鏡下で細胞内の蛍光を確認する(細胞膜に孔が開いていればrhodamine-dextranが細胞内に取り込まれ、発色する。)。発色を確認後、前述した保存液に卵子及び初期胚を移し、真空乾燥・常温保存(保存期間:1日~1年)を試み、復水後の生存性を確認する。生存が確認された卵子及び初期胚については、卵子は野生型♂マウスの精子と体外受精し、得られた受精卵は、卵管移植を行い正常な産仔への発生を確認する。また、初期胚についても同様に卵管移植あるいは子宮移植を行い正常な産仔への発生を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 物品費として、マイクロチューブ、チップ、カルチャーディッシュ、試薬(トレハロース、カテキン、アスコルビン酸、Tris-EDTA等)、培養液・緩衝液(PB1, M2, mCZB-hepes)及び動物代(マウス)等に支出したが、動物実験施設の改修工事及び引っ越しの為、実験が予定より遂行することができなかった。そのため、次年度の使用額が生じてしまった。 (使用計画) 物品費は、マウス飼育料、マイクロチューブ、チップ、カルチャーディッシュ、試薬(トレハロース、カテキン、アスコルビン酸、Tris-EDTA、流動パラフィン、性腺刺激ホルモン、PCRキット等)、培養液・緩衝液(PB1, M2, mCZB-hepes, HTF, THY, mW、エレクトロポレーション用緩衝液)、動物代(マウス)及び外部委託(シークエンス解析)などの購入に充てる。また、得られた研究成果は、日本実験動物学会、日本繁殖生物学会及び国際学会(Transgenic Technology Meeting等)などに発表する予定であるが、その旅費に充てる。
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