研究課題/領域番号 |
18K05703
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
下村 彰男 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (20187488)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地域資源 / 都市緑地 / 資源管理 / 文脈 / コミュニティ |
研究実績の概要 |
本研究は、都市緑地が「地域資源」としての価値を有し、地域の価値を高めていくうえで、都市緑地が、①地域の自然的・歴史的文脈をいかに継承するのか、また、②地域コミュニティの再構築にいかに貢献し得るのかについて検討を深めることを目的としている。 そして2018年度は、特に前者①の目的に関して、地域が継承すべき自然的・歴史的文脈としてどのような事柄があるのか、また、その文脈をどのようなものや事象を通して人々に伝え得るのかについて、東京都における22の都立公園におけるプレ調査を実施するとともに、大阪および北九州、福岡における先進事例調査を通して、それらの枠組みに関して仮説的に整理・検討を行った。プレ調査対象地とした都立公園については、平野部、台地部、そして両者の境界部などの立地環境、また近世から現代にいたる江戸・東京の歴史に配慮しつつ、特徴的であると想定される22の都立公園を取り上げた。 具体的には、自然的文脈に関しては、地形状況や河川をはじめとする水系状況、そして歴史的文脈については、近世、明治・大正期、昭和戦前期といった時期、新田開発や工場の立地といった土地利用、あるいは災害や戦争といった負の歴史に関しても、地域の記憶になり得ることを抽出した。また、それらを伝える手段としては、モニュメントや建築物といった施設はもとより、解説版や説明板、リーフレットといった文字情報の他、樹種や植生、あるいは緑地の形態といった緑地自身を通しても伝え得ることなど、地域の自然的・歴史的文脈の継承のあり方に関する枠組みについて調査・整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度は、地域の自然的・歴史的文脈継承のあり方に関する都立公園でのプレ調査と、大阪および福岡における都市緑地整備に関する先進事例調査を通して、今後の地域資源としての都市緑地のあり方に関する枠組みについて、仮説的に整理・検討を行った。 都立公園におけるプレ調査に関しては、東京都における平野部、台地部、そして両者の境界部などの立地環境、また近世から現代にいたる江戸・東京の歴史に配慮しつつ、特徴的であると想定される22の都立公園をプレ調査対象地として抽出した。そして、それら各公園および公園が立地する地域に関しての歴史や自然環境の特質に関する文献や論文を収集するとともに、地形図や空中写真等をについても収集できる時代のものをできるだけ多く収集した。その上で、継承すべき自然的・歴史的文脈事項、およびその伝え方に関する仮説的な枠組みを検討し、多くの資料が集まった都立公園から、順次、現地調査を実施し始めており、枠組みの確認・修正を実施している段階である。 また、先進事例調査に関しては、大阪市において大阪城公園を、北九州市では勝山公園、和布刈公園、鎮西橋公園、老松公園を、また福岡市においては清流公園、水上公園、舞鶴公園、大濠公園を現地調査した。大阪城公園、勝山公園、水上公園は、官民協働により公園を再整備し、民間施設の導入や管理の協働を通して、公園を多面的に活用して賑わいの演出や地域コミュニティの拠点として貢献していくことを目指したものである。これらの先進事例での調査の結果を、先述した地域資源としての都市緑地のあり方の枠組みに組み込むことを検討している段階である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、都立公園におけるプレ調査を継続し、文脈の継承に関する枠組みをより確かなものにするとともに、合わせて都立公園内および周辺に立地した広義の地域コミュニティ施設(例えば飲食施設、福祉・教育施設、地域住民や団体の活動拠点施設等)についても調査する。また、合わせて都立公園以外の都市緑地(例えば地域制緑地、街路樹等)についても、地域資源として位置づけられている事例を集め、枠組みの補正を行いつつ、最終的な調査対象地を明確に設定する。 また、先進事例調査に関しては、当初より予定していた富山、長岡、帯広等における著名な事例を調査し、枠組みの補正に役立てていく。 最終的には、これらの調査および検討をとりまとめ、地域資源という観点から都市緑地を評価する方法と,整備や管理・運営に関わる計画論の構築に向けた検討を進め、その布石となるよう研究をとりまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用が発生した最大の理由は、地域資源としての都市緑地のあり方に関して、仮説的な枠組みの検討に重点を置き、22の都立公園のプレ調査にとどまってしまったことである。最終的には、100程度の都市緑地を調査対象地としており、そのためのデータ収集や現地での調査に人件費を必要としていたが、一斉調査を実施する前段階として、調査の枠組みの検討に力点を置いたため、予定していた人件費が未使用として残ったためである。今年度は、昨年度の枠組み検討を踏まえ、本調査を実施する予定であり、昨年度未使用分を使うことを想定している。
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