研究課題/領域番号 |
18K05707
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 邦彦 大阪大学, 工学研究科, 助教 (30721253)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文化的景観 / 重要文化的景観 / 担い手 / 維持管理 / 景観保全 / ガイドツアー / 文化財 / 近江八幡 |
研究実績の概要 |
本研究は、国の重要文化的景観選定後に地域の自律的まちづくりを進めるための、保全計画策定や修景事業の実施など、既選定地区での選定前後の活動が、まちづくり推進に与えた影響を明らかにするものである。 2年度目(令和元年度)の取り組みとして、昨年度から引き続き重要文化的景観選定区域における景観構成要素の所有・活用組織に着目した景観変容の研究と、同じく選定区域における地域住民等によるガイドツアー実施実態とツアー運営・実施を通じて生じる住民の景観価値の認識向上や保全活動活性化に関する研究を行った。 前者は、選定第1号である近江八幡市の「近江八幡の水郷」の景観変容とその担い手の関係について調査・分析を前年度に引き続き実施した。将来的な維持管理に要する労働力と費用を明らかにし、査読付き投稿論文としてまとめた(採択決定済み)。さらに所有・利用主体の違いを越え、保全誘導を主体的に進めるための一元管理組織の成立可能性について検討を行った。具体的には、ボランティアとしてヨシ刈りを実施している企業・保全団体や観光従事者組合など9組織に対して,ヨシ刈りの概要や組織の作業能力等を問うヒアリング調査を実施し、作業人員の規模や有する作業能力等を把握した。今後、人的資源や資金の制約のもと、ヨシ原の利用形態により異なる管理水準とそれを担う管理主体の組み合わせを最適化するシミュレーションの検討を予定している。 後者は、景観保全および生業活性化のための地域主導の取り組み把握を目的に、選定区域をガイドツアー(以下、GT)の案内対象としている組織を対象にアンケートおよびヒアリング調査を行った。全国71組織の存在を明らかにするとともに、調査を通じてGTの実施状況や組織の特性,GT実施を通じた景観保全への影響や、ガイド従事者および住民の価値認識や行動への影響を把握した。今後も調査結果の分析継続を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年度目は景観構成要素の所有・活用組織に着目した景観変容の研究成果を査読付き論文にまとめたほか、それらを発展させた一元管理組織による戦略的な景観管理の成立可能性を検討するための様々な主体へのヒアリング調査を実施した。また地域主導の景観保全の取り組みにつながるガイドツアーの実施状況調査を行った。それらに加えて、制度活用の実態を概観するためにその他の重要文化的景観選定区域での地域住民や行政に対するヒアリング調査や、近年選定された区域の保存計画書の収集およびその内容の分析も実施した。 所有・活用組織に着目した景観変容の研究(近江八幡市)は、前年度の産業従事者(ヨシ産業従事者)を対象とする調査結果の分析を継続するとともに査読付き論文としてまとめ、採択が決定した。さらにCSR活動を実施する企業や保全団体等の保全活動実態・維持管理能力を把握する調査等も順調に進み、前年度の成果とあわせて選定区域の保全に関わる多くの個人・組織の実態を明らかにできたことは成果と言える。 また選定区域で実施されるガイドツアーに関する研究では、自治体等への電話調査、文献調査、WEB調査により全国で合計71組織を把握するとともに、そのうち60組織へのアンケート調査、9組織への現地ヒアリング調査を実施し、既往研究での個別事例中心による報告では把握できていなかった全国規模の貴重な情報を収集できた。次年度更に分析を行い査読付き論文への投稿を予定している。また結果速報を文化的景観に関するシンポジウムで報告した。 その他、選定区域における保全活用に関わる組織を特定するために、既に所有していた保存計画書に加え、近年選定された区域の保存計画書の収集およびその計画書に位置づけられている保全組織の特徴を整理した。
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今後の研究の推進方策 |
景観構成要素の所有・活用組織に着目した景観変容の調査は、近江八幡市を対象に調査・分析を継続する。3年度目は選定区域の産業従事者と、非産業従事組織(企業CSRやNPO等)の作業可能量および管理水準を考慮した、選定区域の景観管理の一元化シミュレーションを実施し、多様な主体による、エリアとしての景観保全の取り組みの可能性について検討予定である。 また生業活性化のための地域主導の取り組みとして、文化的景観の価値を活用したツーリズムの導入・実施状況の把握を予定している。保存計画に実施組織として位置づけられている主体のほか、選定後の地域での新たな担い手による取り組みに着目し、交流人口増大への貢献実態、運営課題等を把握する。そして選定準備段階での調査等の実施が実施・運営に与えた影響、実施を通じた住民等の保全意識醸成の実態について明らかにすることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が僅かであり、今年度実施分では有効に活用できず、次年度予算とあわせて活用する方が効果的と判断したため。
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