本研究は、文化財保護法に基づく重要文化的景観選定後の地域の自律的まちづくりの推進実現を目標に、選定地区で実施される保存計画策定のプロセスや普及啓発・修景事業の実施などの様々な活動が、景観保全の範疇を越えて広く地域のまちづくり推進に与えた影響を明らかにするものである。研究は以下の1)~3)の視点から行った。 「1)課題共有・体制構築」に関しては、「近江八幡の水郷」に分布するヨシ原を対象に、伝統産業(ヨシ産業)従事者・組合への聞き取りで明らかにした管理の現状、将来意向の結果をもとに要する労働力と費用を明らかにした(査読付論文)。さらにCSR活動として維持管理に参加する企業等の作業実績・能力を把握した結果をもとに、地域内の労働力を集約し、保全活動に必要となるスキルと労働量に応じて配分し、全体としての最適化を図る一元管理の効果検証ができた(査読付論文)。また地域主導でガイドツアーを実施する全国71組織の調査を実施し、ツアー運営・ガイド従事者や住民の価値認識や行動変容への影響を分析した(査読付論文)。 「2)エリアの魅力向上」に関しては、上記1)近江八幡のほか、棚田景観を有する20選定区域を対象に、一部区域では保全措置・行為規制の導入が不十分であること、さらに景観配慮により整備費総額が高騰でチベーションが高まりにくい構造にあることも明らかにした(査読付論文)。さらに、棚田整備に関係する現状変更行為の届出について、その箇所や変更内容を把握するともとに、保全と営農継続との両者をバランスよく維持するために協議の場でどのような議論がなされているのかを明らかにした(2023年度公開予定)。 「3)財源確保」に関しては、上記2)文化庁ほかの補助事業導入のほか、選定区域で実施された文化的景観の保全や活用を目的とするプロジェクト6件を対象に調査を行い、設定金額未達が多い現状を明らかにした。
|