研究課題/領域番号 |
18K05709
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
黒田 有寿茂 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (30433329)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生物多様性保全 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,絶滅危惧の状況にある塩湿地植物数種の種子発芽特性と生育立地特性を明らかにし,その効果的な域内保全・域外保全の方法を提言することである.2021年度は,これまで研究を進めてきたフクドArtemisia fukudoを対象に,(1)種子保存の可能性と効果的な保存方法,(2)永続的な(土壌中で発芽能力が1年以上維持される)埋土種子集団の形成可能性を調べた.また,(3)塩湿地植物14種のフェノロジー観察記録のとりまとめを行った.内容は以下の通りである. (1)フクド種子を紙封筒とアルミパック(抜気封入)に入れ,低温下で保存し,約2年が経過した種子を対象に発芽試験を行った.温度条件と光条件は,30/15℃変温,明暗交替条件とした.その結果,紙封筒とアルミパックのいずれでも90%以上の種子が発芽し,フクド種子は2年程度であれば抜気封入の有無に関わらず保存可能であることがわかった. (2)兵庫県播磨地方の河川敷で採集したフクド種子をメッシュ袋に入れ,現地の地表面下20 cmに埋め約1.1年経過した後,メッシュ袋を回収した.種子の生残状況を確認した後,発芽試験を行った.温度条件と光条件は,30/15℃変温,明暗交替条件とした.その結果,約6%の種子は埋土期間中に消失もしくは腐朽していたが,約94%の種子は健全な状態で回収され,このうち95%以上の種子が発芽した.このことから,フクド種子は土壌に深く埋もれた場合は永続的な埋土種子集団を形成しうることが示された.ただし,メッシュ袋に入れ埋土処理された状態は,自然条件下での埋土と同一でないことは留意しておく必要がある. (3)2018年7月から2020年3月にかけて観察した塩湿地植物14種のフェノロジー(展葉・開花・種子散布など)の情報を,他の海岸崖地植物4種および海浜植物2種のそれと合わせ整理し,兵庫県立人と自然の博物館の研究紀要(人と自然)で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
フクドに関し,埋土種子集団の形成可能性や種子保存の可能性など,域内・域外保全方法の検討に資する有用なデータを得ることができた.また,絶滅危惧種を含む塩湿地植物のいくつかについてフェノロジー情報を整理し,公表することができた.一方,フクド,およびフクドと平行して発芽試験を行っているドロイ以外の塩湿地植物については種子発芽特性に関するデータがあまり得られておらず,植生調査や環境調査もデータを十分蓄積するまでには至っていない.これらのことから,現在の進捗はやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに,ドロイおよびフクドの種子を対象に,温度・光条件を変えた発芽試験,塩水接触期間を変えた発芽試験,保存条件・保存年数を変えた発芽試験を進めてきた.保存条件・保存年数を変えた発芽試験については,両種を対象に引き続き行う.また,フクドを対象に行っている埋土処理後の発芽試験も引き続き行う.その他の塩湿地植物については,種子が十分に確保できたものを対象に,温度・光条件に対する休眠・発芽反応から調べていく予定である.絶滅危惧種については,当該種と同属の種の休眠・発芽特性を調べるなど,比較研究も進めていきたい(現在はドロイの属するイグサ属の植物数種について予備的な発芽試験を行っている).環境調査はフクド種子の埋土処理と平行して生育地の地温測定を進めているところである.植生調査は,瀬戸内海沿岸と周防灘沿岸ですでに行った踏査の結果をもとに,調査地の絞り込みを行い,複数地点で実施する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延が2021年度も継続し,研究活動全般(特に野外調査)を進めにくい状況となり,これが次年度使用額の生じた主な理由である.2022年度は,この次年度使用額を含め,試験・調査で必要となる物品費,旅費,人件費・謝金等を積極的に執行していく.
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