本研究の目的は,絶滅危惧の状況にある塩湿地植物数種の種子発芽特性と生育立地特性を明らかにし,その効果的な域内保全・域外保全の方法を提言することである.2022年度は,これまで研究を進めてきたドロイJuncus gracillimusを対象に(1)種子保存の可能性と効果的な保存方法を,同じくフクドArtemisia fukudoを対象に(2)永続的な(土壌中で発芽能力が1年以上維持される)埋土種子集団の形成可能性を調べた.内容は以下の通りである. (1)ドロイ種子を紙封筒とアルミパック(抜気封入)に入れ,低温下で保存し,約4年が経過した種子を対象に発芽試験を行った.温度条件と光条件は,30/15℃変温,明暗交替条件とした.その結果,紙封筒とアルミパックのいずれでも95%以上の種子が発芽し,ドロイ種子は4年程度であれば抜気封入の有無に関わらず保存可能であることがわかった. (2)兵庫県播磨地方の河川敷で採集したフクド種子をメッシュ袋に入れ,現地の地表面下20 cmに埋め約2年経過した後,メッシュ袋を回収した.種子の生残状況を確認した後,発芽試験を行った.温度条件と光条件は,30/15℃変温,明暗交替条件とした.その結果,約4%の種子は埋土期間中に消失もしくは腐朽していたが,約96%の種子は健全な状態で回収され,このうち95%以上の種子が発芽した.なお,約1年経過した後に回収した2021年度においても同様の結果が得られている.これらのことから,フクド種子は土壌に深く埋もれた場合は永続的な埋土種子集団を形成しうることが示された.ただし,メッシュ袋に入れ埋土処理された状態は,自然条件下での埋土と同一でないことは留意しておく必要がある.
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