研究課題/領域番号 |
18K05712
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
粟野 隆 東京農業大学, 地域環境科学部, 准教授 (20393374)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 台湾 / 近代庭園 / 日本統治時代 / 東アジア近代庭園史 / 日本式庭園 |
研究実績の概要 |
2019年度は、(1)日本統治時代台湾の民間造園技術者の営業内容、(2)日本統治時代台北の旧日本人住宅・宿舎の庭園の配置・構成、を把握した。(1)は渡部泰輔編『全国著名園芸家総覧(第14版)』(1938)の記載内容を分析し、園芸技術者175名を抽出し、その中から造園技術者(造園業を営んだ造園技術者、造園樹木の養成栽培をおこなった技術者)を抽出して分析し、以下の点を明らかにした。『総覧』にみる日本統治時代における台湾の民間造園技術者は、園芸技術者全体の4割弱にあたる66名であった。66名の造園技術者のうち、推定を含む日本人は49名、台湾漢人は17名で、日本人は造園技術者全体の7割を超える割合であった。造園業を営んだ造園技術者は32名確認できた。そのうち推定を含む日本人は31名、台湾漢人は1名であった。したがって日本統治時代における台湾の和風庭園については、日本人造園技術者が作庭に関係した蓋然性が高い。造園樹木の養成栽培をおこなっていた技術者は57名が確認できた。このうち推定を含む日本人技術者は40名であり、全体の7割に達する。(2)は、日本統治時代の台北に造営された旧日本人住宅・宿舎の庭園について文献調査と現地調査を併用し、以下のことを明らかにした。庭園規模は、建物面積の2~7倍が理想とされ、現地調査では多くの庭園が2倍程度であり、平均では2.2倍であった。庭園配置は、台北市内の風向きと住宅への通風が考慮された結果、南北方向、あるいは南西・北東方向に前庭・主庭を配置する傾向があった。庭園構成は、芝生が太陽の輻射熱を緩和し、植栽は建物の壁体への直射日光を緩和する役割を担い、ベランダ、テラス、パーゴラが防暑のための特徴的な施設であった。外囲いは住宅敷地内の通風を考慮して生垣が推奨されたこと。床下通風の観点から床は高床に設定され、沓脱には自然石ではなく人造石が多用された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の全体構想は、日本統治時代の台湾に築造された日本式庭園の保存状況、地割・意匠上の特色、庭園作者を把握し、日本の近代庭園が国際的に及ぼした影響の一端を明らかにすることである。この課題を達成するため、2019年度は台湾に渡った日本人造園技術者群の営業内容を網羅的に把握した。さらに、日本統治時代の台北に造営された旧日本人住宅・宿舎の庭園について空間的な全体像を把握することができた。2018年度で把握した概要を、2019年度はそれぞれ掘り下げることができ、本研究を推進するうえでの具体的な知見を提出することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として、2019年度は台北市内の住宅・宿舎を取り上げたが、中部の台中、南部の高雄、台南では、どのように違いがあるのか、台湾国内における住宅・宿舎の庭園の地域性を明らかにすることが挙げられる。また官邸クラスの庭園(総督官邸、軍司令官官邸、民政長官官邸ほか、州庁知事官邸)、迎賓館(金瓜石太子賓館、草山御賓館等)、料亭や旅館等の接客施設など、用途の違いによって庭園はどのような特徴を持つのかも明らかにすることが課題である。さらに造園技術者に関する研究課題としては、日本人造園技術者の台湾渡航の経緯、造園技術者が多数集まった台北市川端町の詳細の解明を今後の課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、4月から11月の8か月間、筆者が所属する東京農業大学の依命留学という制度により、国立台湾師範大学文物保存維護研究発展中心の訪問学者として籍を置き、日本統治時代における台湾の庭園調査、文献調査をおこなっていた。当初、ここで使用する予定の旅費等について、台湾現地に在住していたため支出の必要がなくなったことから、「次年度使用額(B-A)」欄が「0」より大きくなっている。2020年度では、新型コロナウイルスにより、現在は台湾にまだ渡航できないが、状況が好転次第、渡航して現地調査を進めるとともに、最終年度の報告書の作成に向けて、アルバイトを雇用してこれまで調査してきた庭園の図面作成を進めたい。
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