近世末期から近代にかけて日本のいくつかの地域において、その地域独特の意匠をもつ庭園群がつくられた。本研究で主な対象とする出雲地方には、住宅などの座敷に面する平坦地を白砂敷きとして、短冊石という細長い長方形の切石や円形の石を飛石に用いて主景とする庭園が数多くあり、それらの意匠が現代も地域に深く根付いている。このような地域的な特徴がどのように生まれたのかを明らかにすることを目的として、本研究を実施した。 2023(令和5)年度は、前年度までの研究による成果や経験をもとにして、庭園における短冊石などの切石の使用について、住宅庭園の現地調査をおこなった。これらの調査においては、庭園の全体構成、およびとくに飛石とその周囲の関連する要素など、個々の構成要素の情報を収集した。また、本研究の最終の成果を論文にまとめて公表するため、これまでの研究成果の整理をおこなった。 本研究課題において、地域独特の意匠・構成で知られる出雲地方の庭園を対象に調査研究を進めた。それらの様式・地割や構成要素を分析した結果、先行研究で指摘されているように、気象条件や茶道の普及に起因して、飛石・手水鉢の形状・配置、燈籠の意匠・石材、樹木の仕立て方等に特徴があり、それが研究者や庭師・造園業者に地域性として認識されていることがわかった。また、作庭書や地域の名園の影響がうかがわれる事例があることがわかった。これらの研究成果の一部は、期間中に日本造園学会等で発表した。 今後、研究成果を論文にまとめて公表するとともに、対象を近畿・中国・四国地方に広げて、この時代の豪農・豪商の庭園の意匠・構成、材料に何が影響し、また、どのような地域性が見出されるのかを明らかにするための研究を続ける。
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