研究課題/領域番号 |
18K05717
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 誠宏 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80545624)
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研究分担者 |
日浦 勉 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (70250496)
西岡 正恵 (石原正恵) 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 准教授 (90594367)
揚妻 直樹 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (60285690)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 気候変動 / 非線形応答 / 暖温帯 / 生物多様性 / 生態系機能 |
研究実績の概要 |
気候変動は温暖化と同時に、突発的な撹乱の頻度と規模を増加させると予測されている。本研究の目的は、1)台風撹乱と温暖化の複合効果が紀伊半島の暖帯林の群集構造と垂直的な階層(空間)構造にどの様な影響を与えるのか?2)その複合効果に対して生物多様性(樹木、昆虫)と生態系機能はどのような応答(線形、非線形)をするのか?を林分レベルで実験的に解明することである。
土壌温暖化と林冠ギャップの処理を行った。太陽光発電を利用した土壌温暖化装置(ソーラーパネル、バッテリー、充電制御器、インバーター、温度センサーを使用)を独自開発し、研究林内に設置した。6m x 3mの方形区の土壌に農電ケーブを埋設して、優占樹種(シキミ、サカキ、ヒサカキ)の地下部を暖めた。しかし、インバーターの能力に制限があり、ソーラパネルからの発電量では十分ではないため、一定時間(10:30-14:30)だけバッテリーから農電ケーブルに電気を流した。その結果、土壌は1℃程度の上昇となった。土壌温暖化は2020年1月下旬から開始した。一方、人工的に林冠ギャップを作成するため、2019年12月にアカガシの倒木処理を実施した。
操作実験前の初期状態を把握するために処理区(土壌温暖化、倒木)と対照区の調査を2019年8-9月に行なった。森林の階層構造を評価するために、ドローン撮影とLAIの調査を行なった。土壌分解の多機能性を評価するために、Tea bagとEco Plateの実験を実施した。生態系機能を評価するために、シキミ、サカキ、ヒサカキの低木と(亜)高木の機能形質(葉形質:窒素、縮合タンニン、総フェノール、LMA、CN比)を測定した。樹木成長を評価するために、これら樹種の葉面積と当年枝長を測定した。植食性昆虫を評価するために、食害度を測定した。大部分の項目は処理区と対照区で有意差はなく、処理間でほぼ同一条件であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年8月23日に台風20号が和歌山県に接近して、研究林周辺の西川地区の観測所では1時間に100ミリ以上の猛烈な雨が降りつづいた。この台風豪雨が原因となって洪水や土石流が生じ、研究林内の林道の30か所あまりが崩落し、実習・調査用の資材や用具600点以上が河川の氾濫で流失した。さらに、研究林の庁舎から敷地内に至る唯一の道路、国道371号線の4箇所もこの豪雨により大きな被害を受けた。その結果、自動車による資材の運搬および重機による設置箇所の整備を行うことができず、平成30年度は研究林内に土壌温暖化と林冠ギャップの処理を実施することができなかった。
しかし、令和元年度は研究林内の林道や施設の復旧工事がある程度進み、自動車による資材の運搬および重機による設置箇所を整備することが可能となったため、林内に土壌温暖化処理のための太陽光発電装置の設置ならびに人工的な林冠ギャップを作成するための倒木処理(伐採する)を実施することができた。さらに、操作実験前の初期状態(樹木群集、階層構造、機能形質、昆虫群集)を把握する調査も実施することができた。
以上のように、本研究は1年目の台風豪雨被害のために、申請当初に計画していた予定よりも1年間ずれて進行している状況である。そのため、本研究の目的に対して、「やや遅れている」となるものの、復旧後は目的とした実験処理や調査は出来るだけ速やかに実施されている。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度に行なった初期状態(樹木群集、階層構造、機能形質、昆虫群集)と同様の調査を8-9月にかけて処理区(土壌温暖化、倒木)と対照区において実施する。令和元年度と令和2年度の調査結果から効果量を算出して、土壌温暖化と林冠ギャップの処理の影響を検証することを目的とする。具体的に以下の調査を行う。
1)森林の階層構造を評価するために、ドローン撮影とLAIの調査を行なう。2)土壌分解の多機能性を評価するために、Tea bagとEco Plateの実験を実施する。3)生態系機能を評価するために、シキミ、サカキ、ヒサカキの低木と(亜)高木の機能形質(葉形質:窒素、縮合タンニン、総フェノール、LMA、CN比)を測定する。4)樹木成長を評価するために、これら樹種の葉面積と当年枝長を測定する。5)植食性昆虫を評価するために、咀嚼性昆虫による食害度を測定する。
以上の項目を調査することで、温暖化や巨大台風の攪乱に対する暖温帯林の生物多様性(樹木、昆虫)と生態系機能(生産性、分解)の初期応答の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年8月23日に襲来した台風20号の豪雨により、研究林内の多数の林道や軌道線の崩壊・資材類の流失が引き起こされ、平成30年度は自動車や重機を使った研究林敷地内への侵入ができない状態となった。そのため、申請当初に計画していた予定よりも1年間ずれて進行している。次年度使用が生じた主な理由は、令和元年度に林内に設置した太陽光発電による温度制御装置が試運転の状態であり、より温度を上昇させる工夫および安定的な運転を実現させる改良を検討しているためである。この装置は独自開発のため、目標とする状態の実現には十分な開発時間を費やす必要がある。次年度の助成金とともに計画的に使用する予定である。
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