研究課題
本研究では、冬から春にかけての気温の上昇に伴って樹木の木部組織と師部組織で見られる細胞の耐寒性の低下機構について、シラカンバを材料として調べている。また、温帯性樹木では木部や師部の細胞に比べて冬芽で脱馴化がより早く起こるという報告があることから、2019年度からシラカンバに比べて冬芽が大きく、実験材料として扱いが容易なブドウをモデル材料として用いて、樹木の冬芽で起こる脱馴化の機構についても調べはじめた。2020年度には、冬芽の研究で大きな進展が得られた。前年度に行った実験では、人為的に一定温度で脱馴化処理を行った場合、ブドウの冬芽はマイナス数度から脱馴化を始めたが、2020年度に圃場で生育するブドウにポリエステル不織布や農業用ポリオレフィンなどの様々なシート状資材を被せて異なる温度環境を作り、それぞれの被覆内のブドウの冬芽の耐寒性変化を調べたところ、屋外でも日平均気温が0℃を超えない時期から脱馴化が開始することを確認した。既存の報告には、日平均気温が0℃に満たない屋外環境で樹木の細胞が脱馴化を始めるというものはなく、本研究によって、これまで考えられていたよりも早い時期から屋外で生育する樹木の冬芽で脱馴化が起こっている可能性が示唆された。冬芽が過冷却を続けるには、その基部の組織が枝から冬芽内部への凍結の伝播を防ぐバリアとして機能する必要があるが、2019年度の研究によって20℃一定で脱馴化をすると冬芽のバリア機能が低下することが示唆された。これをもとに、2020年度に20℃で7日間人為的な脱馴化処理を行った冬芽の基部の組織を偏光顕微鏡によって観察したところ、当該組織内の維管束において、厳冬期の冬芽に比べて二次壁を持つ道管の数が有意に増加することを確認した。この結果から、脱馴化過程における道管の発達が、バリア組織の低下をもたらすことが示唆された。
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Journal of Plant Physiology
巻: 253 ページ: 153248~153248
10.1016/j.jplph.2020.153248
http://univ.obihiro.ac.jp/~plantphysiol/index.html