本研究課題では、平成30年度に木曽山脈山岳域渓畔の崩壊地の砂れき地・崖地に自生する陸生スゲ類のスクリーニングを行い、さまざまな自生種スゲ類の中から、イネ科牧草に似た草型と根茎をもつ小型・常緑の2種(ヒメスゲとアブラシバ)を選抜できた。平成元年度には、これら2種の移植により、土質の異なるのり面での緑化試験地を造成し、生育のモニタリング調査を開始した。その結果、いずれも土質を選ばず生育・繁殖可能であり、冬季にも分げつ数が増加することや、シカ等の生息する試験地においても群落化にいたることを確認できた。 令和2年度(緑化試験2年目)には、地下茎の生育調査を実施し、ヒメスゲが1株あたり合計20cm前後の短い地下茎と高密度な分げつを出すのに対し、アブラシバでは1株で合計7m以上にも及ぶ地下茎を発達させて、まばらに分散した分げつを出すことが判明した。しかし、2種ともに植林地内の半陰地のプロットで衰退する傾向が顕著になり、耐陰性に劣ることが明らかとなった。植生遷移が進み上層を高茎草本や樹木に覆われた場合に生育できないことが新たな課題となった。一方で、採集した種子の発芽実験から、ヒメスゲは休眠性が強く播種前の低温要求性があることや、アブラシバでは休眠性は低いが光条件の制約があることなどが示唆された。これらの知見は、陸生スゲ類の移植や播種による緑化につながる基礎的かつ重要な情報と期待される。 そのため、耐陰性に優れた陸生スゲ類の採集・スクリーニングも視野に入れることと、種子保存条件および発芽条件のさらなる解明が必要になった。しかしながら、令和元年東日本台風による林道や登山道の崩壊、令和2年の新型コロナウイルス禍による移動入構などの不測の事態が生じ、残念ながら多くが未着手のまま残される状況となった。
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