研究実績の概要 |
植物の光合成には光が不可欠だが、過剰な光は「光阻害」として植物に顕著な悪影響を及ぼす。光化学系Ⅱ(PSⅡ)では、光損傷が常に迅速に修復され機能が維持されているが、強光下では損傷が修復を上回り光阻害が起きる。そうした光阻害のメカニズムは、これまで主に光合成微生物や草本植物で解明されてきた。草本植物の光阻害の植物生産への影響は無視できない程大きい。一方、樹木では光阻害の定量的評価は全くなされていない。 本研究では、研究期間全体を通して、樹木の自然変動光下における光阻害の実態把握を行った。本研究の実験は、PSⅡ修復に不可欠な葉緑体のタンパク質新規合成阻害剤の存在下および非存在下で葉に強光を照射し、クロロフィル蛍光測定を行った。照明時間に伴うPSⅡ活性の変化は,光不活性化の損傷速度定数(kpi)と修復の速度定数(krec)を算出して比較した。 本年度はさらに、CO2同化量や葉の形態・窒素量の解析から、PSⅡの損傷と修復の種間差と光合成能力の関係を評価した。樹種は、乾燥耐性・耐陰性など生育環境の違う常緑広葉樹12種,落葉広葉樹6種の18樹種を用いた。温室内の自然変動光下で生育する苗木から葉を採取し、光阻害実験と蛍光測定(Dual-PAM100)に加えて、ガス交換測定(LI-6400XT)によりCO2固定能力やRubisco活性の種間差を測定した。光阻害のPSⅡ修復速度と葉の窒素含有量と間には有意な正の相関、PSⅡ修復速度とLMA(乾重当たりの葉面積)の間には有意な負の相関を示した。この相関の結果について、熱放散(HPLC色素定量)や光合成測定結果等とあわせて解析を行なった。その結果、18種の木本植物の光阻害による樹種群のパターンを明らかにできた。これらの結果を、「グライムの三角形」のストレス耐性と撹乱依存戦略型に、強光下でのPSIIの損傷と修復のバランスをあてはめて考察した。
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