研究課題/領域番号 |
18K05728
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
川口 英之 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (40202030)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国内外来種 / 分布拡大 / 遺伝構造 / 更新 / 先駆樹種 / 雌雄異株 |
研究実績の概要 |
鳥取県西部のアオモジが分布拡大している場所では、遺伝的に異なる東西の集団の一方から他方への侵入と混交が起こっている。この場所から南で新たに雌4個体雄5個体を親とする分布拡大集団を発見し、親世代と子世代の核DNAと葉緑体DNAの多型を測定して、親世代の移入経路の推定、世代間の時間的・空間的な遺伝構造の解析を行った。新たな集団は鳥取県西部のうち西の集団のなかで混交した個体が移入されていた。親世代と子世代で時間的・空間的な遺伝的偏りはなかった。アオモジのような雌雄異株の樹木では、世代間の時間的な偏りや空間的な偏りが小さくなる可能性が示唆された。 近年の分布拡大前の分布域である九州西部から南部の5カ所でアオモジ集団をサンプリングし、核DNAと葉緑体DNAの多型を測定した。近年分布拡大している四国の3カ所でもサンプリングし、同様に多型を測定した。九州西部から南部の集団は、鳥取県西部のアオモジのうち、西の集団と同じクラスターに属した。四国の集団は東の集団と同じクラスターに属した。 皆伐地のアオモジ個体群の継続調査から、4年目に最初の着花が観察され、性比は雄に偏っていた。しかし5年目から7年目まで新たに着花した個体は雌が多く、7年目の性比は雌に偏った。分布解析の結果から、雌の周りで死亡が少なく、雄の周りで死亡が多かった。密度が高く競争が強い条件では雄である確率が高いことが考えられた。密度が高く競争が強い条件で、コストの低い雄として小さいサイズから着花することは競争と繁殖に有利と考えられた。 埋土種子が攪乱後に発芽するアオモジの種子の発芽試験を行った。発芽試験の結果を、すでに報告のあるアカメガシワと比較すると、アカメガシワよりも低く短時間の高温処理で発芽が促進される傾向があった。これは皆伐地でアオモジの実生がアカメガシワよりも広い範囲で発生することに対応した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アオモジの分布拡大における遺伝構造の解析のうち、鳥取県西部の遺伝的に異なる2つの集団の一方から他方への侵入と混交が起こっている場所での解析に加えて、新たに雌4個体雄5個体を親とする分布拡大集団を発見し、親世代と子世代の核DNAと葉緑体DNAの多型の測定により、親世代の移入経路の推定、世代間の時間的・空間的な遺伝構造の解析を行った。葉緑体DNAの多型から、1個体の雌親からの種子散布のパターンを明らかにできた。また、雌と雄の遺伝子型から雌雄異株の影響を考察できた。 広域的な分布拡大における遺伝構造の解析については、近年の分布拡大前の分布域である九州西部から南部の5カ所でのサンプリングと、近年分布拡大している四国の3カ所でサンプリングを行い、核DNAと葉緑体DNAの多型を測定した。 アオモジの分布拡大が在来の先駆樹種の更新に与える影響については、鳥取県西部の皆伐地における測定を継続している。着花の観察も含めたアオモジ個体群の継続調査から、開花年齢、性比、雄と雌の成長、枯死と空間分布を解析できるデータが得られ、雌雄異株性も考慮に入れた、アオモジの他の先駆樹種に対する優位性を考察できた。また個体の成長と生残を周囲の個体によって説明するモデルを構築し、このモデルを用いた解析を開始した。 埋土種子が攪乱後に発芽するアオモジの種子の発芽試験を行い、既に報告のあるアカメガシワと比較した。高温処理の温度と時間の設定を変化させることにより、アカメガシワよりも低く短時間の高温処理で発芽が促進される傾向が示唆された。カラスザンショウの発芽試験の準備もできている。 新型コロナ肺炎の影響で、開花時期の3月に予定していた近畿から東海に至る地域のサンプリング、大阪市立大学と福島大学への研究打合せと資料収集を自粛したが、鳥取県西部でのデータの蓄積と解析は順調に進んでいるので、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
山口県北西部、九州西岸から南部にいたる1970年代に示された分布地域(倉田1971)のアオモジと、近年分布拡大したと考えられるアオモジについて、核DNAと葉緑体DNAの多型データからクラスター解析などの手法を用いて解析を進める。鳥取県西部のアオモジが分布拡大している場所のうち、遺伝的に異なる集団の一方から他方への侵入と混交が起こっている場所と、さらにそこから分布拡大した集団の解析は、アオモジが雌雄異株であることも考慮する。近畿から東海にいたる地域のサンプリングは、調査が行えるようになり次第サンプリングとDNA解析を行うが、状況が改善しない場合は地域ごとにサンプリングを依頼する。以上から、分布拡大の経路と拡大過程における遺伝構造の変化を明らかにし、成果を発表する。 鳥取県西部の伐採地でアオモジ個体群の動態の野外調査を引き続き行う。前年度から、個体の成長と生残を周囲の個体によって説明するモデルを構築し、このモデルを用いた解析を開始しているので、アオモジの他の先駆樹種に対する影響を個体ベースの解析から考察する。アオモジの個体群動態は雌雄異株性も考慮に入れる。 在来先駆樹種の種子発芽特性を実験室での発芽試験によって比較する。アカメガシワは発芽特性の報告(Washitani・Takenaka 1987)があるので、特にアオモジの影響が大きいと予想されたカラスザンショウを対象に、アオモジの発芽試験の結果を考慮して行う。 アオモジ個体群の動態および在来の先駆樹種との競争関係の野外調査の結果と発芽試験のデータから、アオモジの発芽特性、初期の成長と生残の特性、萌芽特性の在来種との違いを明らかにし、どの様な種特性の在来種にどの様な影響があるかを予想し、樹木種多様性への影響を明らかし、成果を発表する。さらに下刈りなどの森林管理にどのような影響が出るかを予想しその対策を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アオモジのSSRマーカーは開発されたマーカーのうち5つを使用して解析しているが、令和2年度におけるデータ解析の過程で、さらにマーカーの追加が必要になった場合のために、測定に必要な試薬と消耗品の予算を次年度使用とした。 新型コロナ肺炎の影響で、開花時期の3月に予定していた近畿から東海にいたる地域のサンプリングと核DNAと葉緑体DNAの多型の測定を自粛せざるを得なかった。このサンプリングにかかる経費とDNA多型の分析にかかる試薬や消耗品などの予算を次年度使用とした。また、3月に予定していた大阪市立大学と福島大学への資料収集と研究打合わせも自粛せざるを得なかったので、この経費を次年度使用とした。
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