クスノキ科の雌雄異株の落葉樹アオモジは、国内では山口と岡山の一部、九州西岸から奄美諸島に分布するとされたが近年、分布拡大が報告されている。伐採など攪乱された土地で旺盛に繁茂し、在来種に置き換わり、下刈りなど植生管理や樹木の多様性に影響すると予想される。アオモジ集団の遺伝構造、攪乱地での発生と成長など在来種との違いを測定し、分布拡大の過程および在来種の更新と植生管理への影響を考察した。 倉田(1971)に示されたアオモジの分布域で21ヶ所、その後の分布拡大域で22ヶ所、各16個体からDNA採取し、SSRマーカーを用いて解析した結果、倉田(1971)の分布域のアオモジは、南西諸島とそれより北に分かれ、南西諸島のほうが遺伝的多様性が大きかった。分布拡大域のアオモジはどちらかに属し、一部で混交がみられた。鳥取県西部でさらに試料採取した結果、両者に由来のアオモジが隣り合い、混交がおこりつつあった。分布拡大域の遺伝的多様性は、倉田(1971)の分布域と比べて低いことはなく、比較的多くの個体が移入されたことと雌雄異株の影響が考えられた。 皆伐地において、在来の先駆種カラスザンショウ、アカメガシワ、ヌルデと実生の発生する光条件を比較した結果、アオモジが相対的に最も暗い場所まで発生し、広く皆伐地を利用していた。種子の発芽実験の結果も、休眠解除される温度がアオモジで最も低く、これを支持した。実生と切株萌芽の樹高成長は在来3種よりも大きかった。アオモジは埋土種子集団の形成、実生の発生範囲の広さ、実生と切株萌芽の大きな初期成長によって皆伐のような攪乱地において優位にあった。 皆伐造林において、アオモジの埋土種子から発生する大量の実生と、切株から発生する萌芽の旺盛な成長に対して、下刈りの追加と除伐の徹底が必要となる。鑑賞や切花に利用する植栽は、雄株または雌株のみとして、逸出を防ぐ必要がある。
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