研究課題
菌類は、落葉や落枝といった生物遺体の分解を通じて、森林生態系における栄養塩の循環や、土壌有機物の生成に深く関わっている。このため、森林生態系の物質循環や森林動態を理解する上で、地下部の土壌分解系の構造や機能についての理解が不可欠だが、分解に関わる菌類の機能的な多様性については、これまで充分には研究されていない。本研究課題では、陸域生態系における物質生産の律速要因として重要なリンに注目し、土壌中でのリン循環に関わるリン溶解菌の機能的多様性を定量的に明らかにした。既存文献のレビューにより、子嚢菌類、担子菌類、ならびにケカビ類に分類される少なくとも50属を、土壌中に存在する多様な無機リン・有機リン化合物の変換に関わるリン溶解菌として報告した。有機リン化合物の加水分解に関与する酵素であるホスファターゼをコードする遺伝子を対象としたDNAメタバーコーディング研究をレビューし、細菌類を対象とした先行報告がある一方で、菌類を対象とした報告が皆無であることが明らかになった。菌類ゲノムデータベースの解析により、アルカリホスファターゼ、酸ホスファターゼ、ホスホジエステラーゼの遺伝子はほとんどの高次分類群で認められるものの、3-フィターゼの遺伝子はディカリアにほぼ限定されることを示し、遺伝子の有無に基づく機能形質の多様性指標としての有効性を提案した。平成30年度から令和2年度までの期間全体を通じて、文献資料に基づく機能形質のデータベース化、分解活性ならびに分解酵素活性の測定による機能形質の評価、菌類群集の機能的多様性の定量化および分解プロセスとの関係を明らかにすることができた。以上の成果により、菌類の機能形質に基づく多様性指標に注目することで森林土壌の分解機能を予測しうることが実証され、土壌分解系に関する研究分野で独自性の高い成果を上げることができた。
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