研究課題/領域番号 |
18K05733
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
中西 敦史 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (90456616)
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研究分担者 |
伊東 宏樹 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (50353587)
石橋 靖幸 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80353580)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アカネズミ / 遺伝子流動 / 遺伝的構造 / トドマツ / ミズナラ |
研究実績の概要 |
アカネズミ類の貯食行動はミズナラの種子散布に有効に働き、また、アカネズミ類は森林環境を選好するため、アカネズミ類による皆伐地への種子散布は皆伐地の森林発達にともない増加していくと予測される。この仮説を検証するため、北海道遠軽町丸瀬布国有林内のミズナラが高密度に混交するトドマツ人工林を対象に研究を実施した。トドマツ植栽木および胸高直径5cm以上のミズナラの年輪解析を実施した結果、ミズナラは、地拵え・トドマツ植栽からトドマツ植栽林閉鎖前までの時期に侵入し、また、ミズナラの侵入時期の頻度分布は、地拵えからおよそ20年後にピークを持つ一山型分布であることが示された。これらのことから、種子散布によるミズナラの侵入は、伐皆・地拵え直後ではなく、トドマツ植栽林がある程度成長してから活発化することが示唆された。また、ミズナラのマイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型を解析した結果、弱い空間遺伝構造が検出され、ミズナラの長距離種子散布が示唆された。さらに、無線周波標識を挿入したミズナラ種子をトドマツ林内に設置し、自動撮影装置により種子設置場所を撮影することで、各種子を持ち去った動物種を観察した。その結果、ほとんどの種子がアカネズミ類により持ち去られたことから、アカネズミ類がミズナラの種子散布に大きく貢献していることが明らかになった。次年度に、これらの種子を送受信機により探索することで、アカネズミ類による種子散布は、森林が発達した箇所への散布(トドマツ人工林内の種子散布)が、森林が未発達な箇所(トドマツ人工林に隣接する植栽地)への散布に比べ、活発であるかどうかを確かめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定どおり1箇所の調査地において予定数以上の個体および種子を解析し、ミズナラの侵入時期、集団全体の空間遺伝構造および種子の動物散布者について明らかにできた。また、本研究の遂行に必要な「無線周波標識および自動撮影装置による動物種子散布調査手法」を開発し、さらに、調査対象林分の林況を分角順位法で明らかにし、それらの成果を学会で発表するとともに学会誌に掲載した。しかし、ミズナラの侵入時期別の空間遺伝構造の違いについては、ミズナラのトドマツ植栽地への侵入が特定の時期に偏り、初期に侵入したミズナラ個体のサンプルが少なかったため、明らかにできなかった。ミズナラの侵入時期別の空間遺伝構造の違いを検証するためには、初期に侵入したミズナラ個体について、さらに多くの個体を調べる必要がある。追加解析予定の個体については、野外調査および遺伝解析用の葉のサンプリングは実施済みで、樹齢解析用の円盤または成長錐コアの採取が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に遠軽町丸瀬布国有林において、無線周波標識を挿入したミズナラ種子をトドマツ林内に設置した。令和元年度にこれらの種子を動物散布後に、送受信機を用いて探索し、各種子について散布動物種と散布箇所との関係性を明らかにすることで、アカネズミ類による種子散布は、森林が発達した箇所への散布(トドマツ林内)が、森林が未発達な箇所(植栽地)への散布に比べ、活発であるかどうかを確かめる。また、同調査地において、平成30年度に解析したミズナラ個体に加え、さらに他のミズナラ個体についても樹齢および遺伝子型を解析することで、ミズナラのトドマツ林への侵入時期別の空間遺伝構造の違いを検証する。 北海道の他の国有林においても丸瀬布国有林と同様に、トドマツ人工林内に生育するミズナラについて侵入時期別に空間遺伝構造を解析することで、トドマツ林の発達にともなうミズナラの侵入パターンの変化を検証する。さらに、無線周波標識を挿入したミズナラ種子について動物散布を追跡することで、アカネズミ類による種子散布は、森林が発達した箇所への散布(人工林内)が、森林が未発達な箇所(植栽地)への散布に比べ、活発であるかどうかを確かめる。以上の結果から「アカネズミ類による皆伐地への種子散布は森林発達にともない増加していくこと」を検証し、ミズナラの侵入時期と侵入条件を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は遺伝マーカー選抜などの予備実験および野外調査が予定よりも効率的に進み、物品費および旅費を節約できたため、次年度使用額が生じた。しかし、予定した調査や解析は遂行できたものの、研究の結果、ミズナラの侵入時期別の空間遺伝構造の違いを検出するためには追加解析が必要であることが分かった。このため、次年度使用額230,614円は、追加解析に必要なサンプリングの旅費(100,000円)およびDNA実験試薬などの物品費(130,614円)として使用する。
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