研究課題/領域番号 |
18K05733
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
中西 敦史 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (90456616)
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研究分担者 |
伊東 宏樹 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (50353587)
石橋 靖幸 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80353580)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アカネズミ / 遺伝子流動 / 遺伝的構造 / トドマツ / ミズナラ |
研究実績の概要 |
北海道紋別郡遠軽町生田原において、2020年秋にトドマツ残存林内に設置した「無線周波標識(PITタグ)入りミズナラ種子」を、送受信機を用いて探索した結果、持ち去られた80個の種子の内、44個の種子またはPITタグを発見した。これら44個の種子の散布距離は平均2.2m、最長14.8mで、種子を設置したトドマツ残存林の外の植栽地への散布は2個だった。また、これら44回の種子散布の内約2割が根株下、倒木の中など実生の定着・成長が難しい箇所への散布だった。さらに、2021年秋に、PITタグ入りミズナラ種子を植栽地に隣接するトドマツ残存林内の4箇所にそれぞれ30個ずつ設置し、自動撮影装置により種子設置場所を撮影することで、各種子を持ち去った動物種を観察した。その結果、アカネズミとヒメネズミによる種子の持ち去りなどが観察された。 北海道紋別郡遠軽町瀬戸瀬の帯状伐採後のトドマツ人工林(残存林)に新試験地を設定し胸高直径5cm以上の主幹を持つ樹木個体(成木個体)について分角順位法による毎木調査を実施した。試験地のミズナラの成木個体の年輪解析を実施した結果、ミズナラはトドマツ植栽から平均およそ10年後に出現していたことが示された。また、ミズナラ成木のマイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型を解析した結果、弱い空間遺伝構造が検出され、ミズナラの長距離種子散布が示唆された。さらに、PITタグを入れないミズナラ種子を植栽地に隣接するトドマツ残存林内の2箇所にそれぞれ30個ずつ設置し、自動撮影装置により種子設置場所を撮影することで、各種子を持ち去った動物種を観察した。その結果、アカネズミとヒメネズミによる種子の持ち去りが観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミズナラの出現時期と空間遺伝構造については、これまでに、計画変更後の目標試験地数の3箇所のトドマツ人工林内において明らかにした。欠失データが少しあるものの、最終年度に欠失データを補うための追加の調査・サンプリング・解析を実施し、解析結果の精度をさらに上げることができると考えられる。 PITタグを用いた動物種子散布調査については、計画変更後の目標試験地数3箇所の内2箇所で実施した。また、当初計画では、「ミズナラ成木が混交するトドマツ人工林およびそれに隣接する皆伐後トドマツ植栽地」を調査地とする予定だったが、3か所の調査地(丸瀬布、生田原および瀬戸瀬)の内、2箇所(生田原と瀬戸瀬)については「ミズナラ成木が混交するトドマツ人工林およびそれに隣接する皆伐後カラマツ植栽地」を調査地としている。さらに、瀬戸瀬試験地では、トドマツ残存林の広範囲の林縁にボサ(伐採後の幹・枝・根株などの集積)が放置されていて、トドマツ残存林内に設置したミズナラ種子の大半はボサに運ばれ、回収不可能になると考えられたため、瀬戸瀬試験地の動物種子散布調査については、PITタグを挿入しないミズナラ種子を使用し、種子の持ち去りの観察までとした。その代わりに、2021年度は、2020年度と同様に、生田原試験地のトドマツ残存林の内、林縁や林内にボサがないまたは少ない林分に、「PITタグ入りミズナラ種子」を再度設置し、生田原試験地における2回目の動物種子散布調査を実施した。これらの変更があったものの、これまでの成果から、目的である「アカネズミ類による種子散布は、森林が発達した箇所への散布(トドマツ林内)が、森林が未発達な箇所(植栽地)への散布に比べ、活発であることを確かめる」ことができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
生田原試験地において、2021年秋にトドマツ残存林内に設置し、その後動物散布された「無線周波標識(PITタグ)入りミズナラ種子」またはそれらのPITタグを、送受信機を用いて探索し、各種子またはPITタグについて散布動物種と散布箇所との関係性を明らかにする。 ミズナラの出現時期と空間遺伝構の解析に必要なデータについて、欠失データを補うための追加の調査・サンプリング・解析などを実施する。 得られた成果を基に以下の検証を実施する。トドマツ人工林内に生育するミズナラの出現時期と空間遺伝構造との関係性を調べることで、トドマツ林の発達にともなうミズナラの侵入パターンの変化を検証する。また、PITタグ挿入ミズナラ種子の持ち去りの観察および送受信機による探索の結果を基に、アカネズミ類による種子散布は、森林が発達した箇所への散布(人工林内)が、森林が未発達な箇所(植栽地)への散布に比べ、活発であるかどうかを確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、2020年度と同様に新型コロナ感染予防のため、できるだけ少人数で1回の調査・サンプリングを長期実施した結果、旅費が予定していた額より少額となった。未使用額26,119円は、2022年度の調査・サンプリングの旅費として使用する。
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