研究課題/領域番号 |
18K05735
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
北島 博 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70353662)
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研究分担者 |
近藤 洋史 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (10353690)
齊藤 正一 山形県森林研究研修センター, 森林生態保全部, 主幹 (80502583)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カシノナガキクイムシ / 耐寒性 / 過冷却点 / 地域変異 / 北進 |
研究実績の概要 |
カシノナガキクイムシの耐寒性とその地域変異を把握することで、ナラ枯れの北方寒冷地への拡大予測を行うことを目的とする。このため、今年度はカシノナガキクイムシの過冷却点の地理的変異を明らかにするために、特に東北地方のナラ枯れ被害丸太を収集し、冬季の過冷却点を測定すること、および、山形県内の標高が異なるいくつかの地点に設置したナラ枯れ被害丸太を割材して、越冬個体の生存率を調べるとともに、温度との関係を解析することを行った。 カシノナガキクイムシ幼虫の冬季の過冷却点を、青森、岩手、山形、静岡、徳島、および鹿児島県の個体群で測定した。うち、静岡と鹿児島の個体群は太平洋型、残りは日本海型であった。過冷却点の平均値は、-15.3~-19.0℃まで地域により大きくばらついたが、緯度にともなう一定の傾向は見られなかった。青森や岩手といった北方の個体群の過冷却点の値が特段に低くなることはなかった。これらのことから、過冷却点については寒冷地ほど低くなるような地理的な変異はなく、ナラ枯れの北方拡大に伴う顕著な耐寒性の獲得は見られないのではないかと考えられた。 山形県内の標高145m~1100mの間の4地点にナラ枯れ被害丸太を冬期間静置し、翌年5月に割材してカシノナガキクイムシ幼虫の死亡率を調べた。その結果、標高の上昇につれて幼虫死亡率は高くなった。丸太設置場所の日平均気温の推移は、標高420までは0℃以上だが、標高820m以上では0.1~0.2℃で安定していた。高標高での温度の安定は、積雪によるものと考えられた。しかし、幼虫の死亡率は標高820mより標高1100m地点の方が高かった。この幼虫死亡率の違いは、厳冬期の積雪前の氷点下の出現が要因である可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナラ枯れの北方寒冷地への拡大の原因の1つとしてカシノナガキクイムシの耐寒性の解明を目指してきた。過冷却点については寒冷地ほど低くなるような地理的な変異はなく、ナラ枯れの北方への拡大に伴う、顕著な耐寒性の獲得は見られないことがわかってきた。一方、寒冷地での越冬可能性については、積雪により0℃前後に気温が安定する前の氷点下の影響が要因となっていることが、新たにわかってきた。この点についてさらに検証をすすめることで、最終目標である寒冷地へのナラ枯れ拡大予測の精度向上が可能になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
寒冷地での越冬可能性については、積雪により0℃前後に気温が安定する前の氷点下の影響が要因となっていることが、新たにわかってきた。この点について、山形県内で再度、確認のための実験を行う。積雪前に氷点下を記録するような地域をGIS上で解析することで、カシノナガキクイムシの越冬可能地が推定できると考えられる。この結果をもとに、最終目標である寒冷地へのナラ枯れ拡大の予測精度向上へ向けた作業を行い、特に広大なナラ林を抱える北海道でのナラ枯れ予測について詳細に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
カシノナガキクイムシの高標高地での越冬可能性について、再度実験を行うように計画を変更したこと、ナラ枯れの北方への拡大予測について、特に北海道での予測マップ作製のために現地踏査のための出張を次年度に多く行うように計画を変更したことから、次年度使用額が生じた。
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