研究課題/領域番号 |
18K05737
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
石田 清 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (10343790)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 開芽時期 / 消雪時期 / 場所間変異 / 開芽積算温度 / 年度間変異 / 発芽時期 / 遺伝的変異 / ブナ |
研究実績の概要 |
(1)ブナ林冠木を対象として多雪山地における消雪時期と開芽時期との関係を明らかにするため、青森県八甲田連峰において積雪深の異なる9地点に設置したカメラと温度計で得られた9年間のデータを用いて開芽時期の場所間変異を分析した結果、ブナ林冠木の開芽積算温度は消雪が遅い地点や消雪時気温が高い地点ほど大きいことを見出した。この結果に基づいて、消雪が遅い場所のブナ集団は積雪上での着葉期間を短くすることに適したフェノロジー特性を持つことを明らかにした。一方、開芽積算温度の年度間変異は逆の傾向を示し、消雪が早い年や消雪時気温が低い年に値が大きくなる傾向があることを明らかにした。この結果に基づいて、ブナは消雪時の気温や日長などの情報を利用することにより、消雪が早い年は消雪後の温度上昇によって開芽が早まりすぎないように分裂組織の成長速度を抑制していることを示唆した。 (2)八甲田連邦に4調査地点を設置し、積雪環境の異なる2地点ずつで相互移植的にブナ種子を播種した。翌年、雪解け時期や光環境、当年生実生の葉フェノロジーについて調査・観察を行った。その結果、雪解けが遅くなるほど実生の発芽・展葉時期が遅くなる傾向があること、また、最も積雪の多い地点では雪解けが遅い場所の実生ほど生存率が低い傾向を見出した。一方、種子の産地や光環境は生存率に対して有意な影響を及ぼさないことも明らかにした。春季・秋季の葉フェノロジーについては、播種した地点における積雪を除いた環境の影響は有意ではなかったが、種子の産地間で違いが見られた。この結果に基づいて、ブナ当年生実生の葉フェノロジーは遺伝的に決定されており、表現型可塑性の程度は大きくないことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
青森県八甲田連邦においてブナ集団を対象とした葉フェノロジーの観測、気象観測、及び植栽実験を行い、ブナ林冠木と実生の開芽時期の場所間変異と遺伝的変異、表現型可塑性についての仮説を裏付ける成果を得た。さらに、標高に伴うブナの葉フェノロジー形質の遺伝的分化を測定するための標高別植栽試験地を設定した。このように、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
ブナ集団を対象としたマイクロサテライト分析を行い、血縁関係と開芽フェノロジーの類似度との相関を分析する。これによって、葉フェノロジーの遺伝性(遺伝率)を明らかにする。マイクロサテライト分析は既に8遺伝子座で完了しているが、さらに遺伝子座数を増やして血縁推定の精度を高める。また、標高別植栽試験地に植栽したブナ実生の葉フェノロジー観測値を分析することにより、葉フェノロジーの反応規格を集団ごとに推定する。これにより、気候温暖化に対するブナ集団の葉フェノロジーの進化的応答の程度と方向性を予測する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりも少ない調査回数とサンプル数で解析が可能なデータを得ることができたため、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせて以下の使用を計画している:(1)ブナ集団の遺伝分析のための試薬・消耗品購入、(2)調査を実施するための調査道具購入、(3)調査補助者のための謝金としての支出、(4)学会参加のための出張
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