本研究では、環境指標生物としてモニタリングされている地表徘徊性甲虫類(オサムシ科)のうち、分布域が広く出現頻度の高い普通種について、その生態を調べ、調査結果を読み解く際の基礎データを構築することを目指した。また、DNA解析を行いそれぞれの種の系統関係を明らかにし、生活史戦略の進化過程を総合的に理解することを目的とした。 ピットフォールトラップによる野外調査と、解剖を組み合わせることにより、各種の季節消長、飛翔能力、食性、繁殖型を調べた結果、地表徘徊性甲虫類(オサムシ科)は、1つの科で非常に幅広い生態を示した。飛翔性は、後翅が短翅に退化しているもの、発達した長翅を有しながら飛翔筋が退化して飛べないもの、高い飛翔性を示すものまであり、食性も肉食のものから植食のものまであった。繁殖様式も、春繁殖型・秋繁殖型に加え、小卵多産型のものから大卵少産型のものまであった。 遺伝子解析から各種の系統関係が明らかになった。さらに、これら系統樹に基づいて各種の多様な生態に関して、その分化過程を解析した結果、祖先種は飛翔能力があり、食性は肉食であったと推定された。どちらもそれぞれの族で独立に飛翔性や食性が進化し、すなわち異なった族で並行して見られる収束進化がみられた。 地表徘徊性甲虫類は、現在も後翅の退化が進行中の種がいる可能性があり、学術的に興味深い分類群である。また、本分類群は環境指標生物として調査されているが、今回明らかになった知見を活かすことでその調査結果の解読への寄与が期待される。
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