研究課題/領域番号 |
18K05741
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浅野 友子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (80376566)
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研究分担者 |
内田 太郎 国土技術政策総合研究所, 土砂災害研究部, 室長 (60370780)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 山地河川 / 極端洪水 / 斜面応答速度 / 圧力伝播 / 河道抵抗 / 流量 / 水位 / 地形 |
研究実績の概要 |
山地域に豪雨があると、これまでの流出モデルでは予測が難しい、鉄砲水や土石流と呼ばれる極端に大きな水位上昇やそれにともなう土砂流出が生じる(以降では「極端洪水」と呼ぶ)。この極端洪水は、観測が困難で実態把握や現象解明が進んでいない。そのため現状では、たとえ豪雨予測ができたとしても、いつどれほど河川の水位や流量が増加するのか予測できない状況がある。 本研究では,申請者らが検討してきた新たな観測システムを用い、観測に基づいて豪雨時の山地河川での極端な洪水現象の実態を把握し、実態に基づいて豪雨時の水位や流量の予測精度向上をめざすことを目的としている。研究期間中に次の二つの課題に取り組む。①流域の湿潤度に依存する斜面の応答速度の実態解明と、②水位・流量と河道抵抗の関係の解明を行い、定式化し、予測モデルへの組み込み。 ①については、山地河川(東京大学樹芸研究所青野研究林)での1分間隔の水位観測から、斜面が十分に湿潤である場合、降雨ピークから流出ピークまでのピークの伝播速度は非常に速い場合があることを示した(Asano and Uchida, 2018)。また、斜面のピーク伝播速度を定量的に評価したところ、降雨ピークから数分以内に河川にピークが伝わることを明らかにした(Asano et al.,2019)。②については、レビューと実測に基づき河道抵抗は増水にともない急激に小さくなるが、多くの河川で水位が一定以上大きくなると抵抗の変化が小さくなることなどを明らかにした(浅野他2018)。これに基づき、洪水時の山地河川の水移動を表現するのに最適な式を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は荒川源流域の大起伏山地にある入川、滝川流域(東京大学秩父演習林)での観測による洪水の実態把握と解析、定式化にむけての検討をおこなった。観測設備は、台風19号による土砂流出で壊滅的な被害を受けたが、水位計の一部は流されなかったため、大規模出水時の貴重なデータが取得できた。また、台風19号の前に測量をして河川の従横断面地形を把握していたことも幸いだった。2018年に得られた多地点での水位観測データの整理を進めた。また、2018、2019年の大雨時のレーダ雨量データの整理を進めた。 いくつかの降雨について河道流下距離と、ピーク遅れ時間の関係を検討したところ、降雨の規模によって応答は異なるが、河道の流下距離とピーク到達時間の間には直線的な関係がある場合があることがわかった。大起伏山地においても流域が十分湿潤になると、斜面の応答は速くなり、河道での時間遅れが流域応答の遅れの主な要素となることが示唆された。一方で、流域面積が大きい場合、どのような積算時間単位の降雨が流出ピークに最も寄与するのかを追加で検討する必要がある。また、降雨の空間分布の影響を考慮する必要があることがわかった。 また、国交省が収集している流量データのうち、これまでに山地河川での観測データについて整理したデータを用いて、大きな出水時の降雨―流出応答を調べた。 定式化に向けての検討として、河道の水の流れの定式化に向けた数値実験を行った。これまでの観測結果や既存の研究のレビューから、凹凸の大きな山地河川の洪水時の水の流れを表現するのに最適な式を抽出した。また実際のデータを用いて抽出した式が実態を再現できるのか確認する数値実験を行うための準備をした。
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今後の研究の推進方策 |
【実態把握】昨年度取得した秩父演習林における短い時間間隔での水位観測データ、流量観測データ等の現地観測データの整理を行う。雨量観測結果、レーダ雨量データの収集と整理を行う。湿潤条件下での斜面の洪水伝播速度について調べる。また3カ所ある量水堰堤での流量観測結果を用いて、流量の空間分布の評価、洪水時の河道抵抗の時間変化とその空間分布、河道の洪水伝播速度なども評価する。 豪雨時のビデオ画像から読み取った大規模出水時の水位変化を流量に変換する方法について検討する。大規模出水時の水位、流量変化と流域地形や河床形態や降雨条件との関係を分析する。様々な流域条件(地質、地形、土地利用)および降雨条件のデータを収集し、現象理解のための分析と、モデル検証に向けたデータ整備を行う。 【定式化にむけて】今回新たに得られた結果やこれまでに得られてきた理解に基づいて、洪水時の山地河川の応答特性の定式化を行う。大規模出水時のデータを取得するのは非常に困難であったが、新しいデータや情報は一定程度得られた。得られた情報を最大限生かして定式化を進める。先ずは、水位や流量によって変化する河道の抵抗をモデル化する。斜面の圧力伝播による水移動のモデル化も検討する。新たに作成した式を用いて、極端洪水時の数値実験を行い、精度検証を行う準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
台風19号で被災するなどしてデータ収集・整理や解析が予定通り進まなかった。しかし、補助してくれる技術者を見つけられたので、その技術者とも相談し、技術提供をうけるための予算を繰り越し、次年度に解析を進める。また、データ収集・整理について補助者と相談し、次年度に行う予定である。
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