ヒノキは植物ホルモンの一つであるジベレリン3(GA3)に対する花成応答性が低い。そのため、GA3に代わる簡便で効果的なヒノキの着花技術の開発が求められている。昨年度までの研究において、GA4/7に対してヒノキは花成応答することが明らかになり、そのメカニズムの一部も解明した。しかしながら、GA4/7に対してきわめて花成応答が悪いヒノキが1系統存在していた。この系統は少花粉(雄花が少ない)の性質をより強く持っている可能性があり、花粉症対策を考慮した森づくりを考える上で重要な系統である。 今年度の研究では、シロイヌナズナのジベレリンに対する花成メカニズムを参考に、ジベレリンのシグナル伝達に重要な役割を果たしていると考えられるGID1遺伝子やDELLAタンパク質、F-boxタンパク質に属する遺伝子に着目した。そして、「このシグナル伝達に関わる遺伝子の発現特性に系統間差が存在する」との仮説を立て、これらの遺伝子の発現特性や、ヒノキ花成の初期応答メカニズムを考察することを目的とした。 ヒノキのGID1遺伝子の発現特性について解析した結果、GA4/7処理に対して、中10号(GAに対して感受性が高い系統)の発現は強く減少したが、久慈6号(GAに対して感受性が低い系統)では緩やかな減少であった。GID1遺伝子はジベレリン受容体として、ジベレリンのシグナルを伝達する役割を果たしている。シロイヌナズナでは、DELLAタンパク質の分解によりジベレリンのシグナル伝達にフィードバック作用が働き、ジベレリン処理から3時間でGID1遺伝子の発現が減少することが確認されている。つまり、中10号は久慈6号に比べDELLAタンパク質の分解量が多く、強いフィードバック作用が生じていることを示唆している。そのため、この遺伝子の応答性の違いが、GA4/7処理に対する系統間の感受性の違いのひとつであると考えられる。
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