研究課題/領域番号 |
18K05744
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
向井 讓 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (80283349)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 胚致死遺伝子 / 2親性近交弱勢 / 胚乳 / SSR / MIG-seq / スギ |
研究実績の概要 |
他殖家系や自然受粉種子にも利用可能な針葉樹の胚致死遺伝子の検出法を開発するため、スギ抵抗性品種2個体(No79およびNo54)の交配家系(No79×No54)およびそれぞれの自殖家系の種子から、胚と胚乳とを分離し、それぞれからDNAを単離した。 まず、昨年度まで使用していたSSRマーカーを用いて分離比を調査し、交配家系で有意に偏った分離比を示す2座において、それぞれの自殖家系でも分離比が偏るのかを調査した結果、2個体とも自殖家系では分離比は偏っていなかった。この結果から、同定した遺伝子座における分離比の偏りは、当初予想した2親性近交弱勢に起因するものではないと判断された。 次に、一度にゲノムの広範囲の領域に分布する多数の遺伝子座で分離比の解析ができるMIG-seq法を用いてた解析をおこなった。 その結果、両親からの遺伝性が確認できた4,870座の中から、両親ともヘテロの遺伝子座74座、ホモ×ヘテロの遺伝子座をNo79では95座、No54では96座得ることができた。 MIG-seqで得られた上記の遺伝子座に既存のスギ連鎖地図(Moriguchi et al. 2009)との連鎖関係を解析できるSSRマーカーを加えて連鎖解析をおこない。No79については地図距離合計810cM、No.54については642cMの連鎖地図を作成した。 作成した連鎖地図に座乗する遺伝子座における分離比の偏りを調査した結果、No.79で6個の連鎖群、No.54では2個の連鎖群において有意に偏った分離比を示す領域が同定された。また、統計的には有意ではないが、他殖家系およびそれぞれの自殖家系で共通して比較的大きな分離比の偏りを示す領域が検出された。この結果は、他殖家系における分離比の偏りが、それぞれの自殖家系が共有する胚致死遺伝子によって生じたことを反映すると考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度より交配実験をおこない分析用の材料を採集していたが、自殖種子の充実率が予想以上に低かったため、統計的に有意な分離比の偏りを検出できる最低限の種子数で分析をおこなっている。その後、種子数の追加をおこなうため、交配作業を繰り返したが、2019年度は着果数が少なく、2020年度はコロナの影響で交配ができなかったため、十分な種子を採集することができなかった。 MIG-seq法を利用して、スギゲノムの60%程度をカバーする連鎖地図を作成し、分離比の偏りを解析できたが、欠測値があるため、分離比の偏りが統計的に有意にならないなど当初計画どおりの精度で解析をすることは困難であった。このため、研究期間を1年延長したが、交配準備(ジベレリンによる開花促進)のタイミングを逸するなど、2021年度も研究試料を追加することができないと予想される。
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今後の研究の推進方策 |
MIGーseq分析による連鎖地図のゲノムをカバーする割合いが予想より少なかったこと、分析種子数を増やすことができないことなどを考えると、当初計画した胚致死遺伝子の効果や連鎖地図上の正確な位置、ゲノム全体の胚致死遺伝子の総量(胚致死等量)の推定は不可能であると予想される。 一方、自殖と他殖に共通して分離比の偏りを示す遺伝子座が同定できたので、本研究の到達目標の一つである、自然受粉種子における分離比の偏りが2親性の近交弱勢によって生じるのかを確認するため、これまでの研究で検出された母樹の自殖家系で分離比が偏った遺伝子座において自然受粉種子を対象に分離比の調査をおこない、胚乳を用いた胚致死遺伝子の検出法が自然受粉種子にも適用できるのかを調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
交配実験で採集できた種子の数が当初計画よりもかなり少なかったため、DNA抽出、SSRフラグメント解析の支出が大幅に減少した。また、コロナの影響で外出できなかったため出張旅費を使用しなかった。
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