針葉樹の胚乳を用いた胚致死遺伝子検出法の確立を目的として、昨年度までに、スギSSRマーカー及びMIGーseq分析による連鎖地図を作成し、自殖及び他殖種子の胚乳におけるマーカー遺伝子の分離比の解析を行った。作成した連鎖地図のゲノムカバー割合いが60%程度であったこと、採集種子の充実率が低かったため、分析種子数を増やせないことなどから、当初計画した 胚致死遺伝子の効果や連鎖地図上の正確な位置、ゲノム全体の胚致死遺伝子の総量(胚致死等量)の推定は不可能であると予想された。一方、自殖と他殖に共通して分離比の偏りを示す遺伝子座が同定できたので、本年度は、自然受粉種子を対象に分離比の調査をおこなう予定であったが、凍害や虫害によって大部分の雌花が枯死し、十分な数の種子が得られなかったことに加え、得られた種子のMIGーseq分析を試みたが再現性のあるデータが得られなかった。そこでこれまでに得られた結果の考察を行った。 他殖及び両親の自殖家系に共通して比較的大きな分離比の偏りがみられた第10連鎖群のLo11446座では欠測データが比較的少ないこと、近傍の遺伝子座においても同様の分離比の偏りがみられることから、他殖に用いた両親において共通の胚致死遺伝子を保有していたとによる2親性の近交弱勢である可能性が高い。 本研究は、胚乳を用いた胚致死遺伝子検出法の開発を目的としたが、残念ながら、胚致死遺伝子の位置や効果を推定できる高解像度のデータが得られず、目的は達成できなかった。理論上、胚乳を用いることは他殖や自然受粉種子にも応用できる有効な方法であると思われるが、胚と胚乳とを完璧に分離するなど大変難度の高い実験方法に頼っていたことが、未達成の主要因と思われる。自殖及び他殖の実生を用いて2親性の近交弱勢を検出し、検出した遺伝子座に限定して胚乳を用いた分離比の解析を行うことが解決法として考えられる。
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