在来植物を使用する法面緑化において,日本産種子は外国産種子よりも高価であるため,外国産種子が多くの現場で使用されている。しかし,地域外の種子の使用は地域個体群に遺伝的撹乱を生じる可能性がある。種子は緑化現場と同じ流域内から供給されることが理想的であるが,入手できない場合はより広い地域から種子が供給される必要がある。そこで,法面緑化によく使用される在来植物のメドハギ,コマツナギ,ヨモギ,チガヤの地理的遺伝構造を明らかすること,自然生育地の個体と,緑化法面の個体,緑化用種子から育成した個体の遺伝的差異を評価することを目的に研究を行った。メドハギの地理的遺伝構造には南西から北東方向の遺伝的クラインが見られ,北海道,東日本,西日本,九州の4地区に遺伝的に分化していた。メドハギの中国産種子には他のハギ属植物の種子が混入していた。種子の中では,中国産種子由来のメドハギは日本の自然生育地個体と遺伝的に最も離れていた。アメリカ産種子由来のメドハギは日本の自然生育地個体と遺伝的に近かった。緑化法面では,アメリカ産種子の1系統が広く定着している可能性があるが,緑化法面におけるメドハギの遺伝的変異の地理的分布は自然生育地と異なっており,遺伝的撹乱のリスクがあることが明らかとなった。コマツナギについても独自の地理的遺伝構造が見られた。ヨモギおよびチガヤについては,両種ともに緯度に沿った遺伝的分化が見られた。さらにヨモギについては,緑化に使用されている2種類の中国産種子(中国原産の輸入種子と,日本原産種子を中国で栽培した逆輸入種子)の遺伝的変異を調べ,自生個体のものと比較した。中国原産種子由来の個体は,日本の自生個体とは遺伝的に明瞭に異なるだけでなく,痩果の形態や1頭花あたりの花数にも違いが見られた。つまり,日本のヨモギとは異なる種が,ヨモギとして国内に導入されている現状が明らかとなった。
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