研究課題/領域番号 |
18K05748
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
宮沢 良行 九州大学, キャンパス計画室, 助教 (80467943)
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研究分担者 |
石田 清 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (10343790)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光合成 / 蒸散 / 通水 / 冷温帯 / 多雪地 / 積雪 |
研究実績の概要 |
本年度は昨年得られたデータを基に、樹木の蒸散の環境応答の解明と、特に積雪の影響の解明に取り組んだ。前年度に回収できなかった積雪時の樹液流速度の計測を行い、積雪深および種の違いが樹木の水利用に及ぼす影響を調べた。前年に計測した樹木個体に自作した樹液流センサーを設置し、配線された記録媒体を通じて樹液流速度の採取した。材の劣化やセンサーの損傷のため定期的にメンテナンスをすることで途切れなくデータの採取を行った。データを連続的に電気関係の問題により早春のデータは得られなかったが、それ以降については最大1ヶ月の積雪期間の違いにもかかわらず、蒸散速度およびその環境応答パターンには明確な違いが見られなかった。同時に実施されている別研究では、除雪は積雪の影響の除外に加え、低温の空気にさらされることに起因した冷却効果もあることから、実測結果には積雪以外の影響もまた繁栄されていたことが原因であると考えられる。昨年解明された、蒸散が促進されるような気温・大気飽差の上昇下においても蒸散が大きくならない傾向が本年度も確認され、この地域のブナミズナラでは蒸散速度を低く抑制する生理学的な仕組みが存在することが確認された。既存研究の結果では、蒸散を行う葉にはそのような仕組みがあるとは考えられないことから、通水器官である根や幹の導管に原因があると考えられる。その原因を特定することで、多雪地の主要樹種であるブナミズナラの蒸散、そしてそれと連動する光合成の一挙一動を捕捉し予測できるよう、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実験は、課題の中心的な情報である蒸散の実測と、蒸散過程を左右する要素である生理的な特性(水のポテンシャル、導管などの通水器官の通りやすさ等)の収集からなる。前年度には初夏以降の蒸散を捕捉しており、本年度の課題はそれ以前のデータ収集であった。だが暖冬にもかかわらず積雪が多かったために融雪前の機材設置が困難であったこと、また多雪により計測機器の損傷が激しかったことから、開葉直後の計測ができなかった。だがこれらデータは次年度早期の観測により容易に収集できると期待され、大きな遅れにはなっていない。一方で昨年観測された、水が豊富で冷涼な乾燥とは無縁の冷温帯林において蒸散が抑制される現象を発見しており、二年目のデータが蓄積された。一地点の一樹種でしか発見できなかった蒸散抑制の結果が、二地点、二処理(除雪と無処理)、二樹種で観察され、この地域の主要二樹種で広く観察されるという結果を得ることができた。補足的に、積雪がほとんどない弘前市内でも計測を開始することで、蒸散抑制の有無と積雪の関係の解明を開始した。その成果のとりまとめが進むなど、全体としては研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは本研究の主要目的である、積雪に伴う環孔材樹種であるミズナラでの顕著な蒸散抑制の実態解明を完結させる。春以降については、多雪・少雪地、除雪処理の有無にかかわらず、ブナと比べて明瞭な違いは観察されていないことから、計測が完了していない開葉直後の蒸散比較を実施し、積雪の蒸散抑制を解明することが一つのゴールである。また課題遂行中に発見された夏の蒸散抑制については、蒸散が抑制されている時に何が起きているのか、改名する予定である。蒸散の抑制は、葉の水需要が午前中早い段階で飽和した場合、通水器官の水供給能力が低くて葉の水需要増加に追いつかない場合、別の理由、が考えられるが、追加実験を加えることで原因を特定する。これまでに得られた蒸散の連続観測データと、上記追加実験で得られる生理学的な計測を通じて、光合成など関係する諸現象を逆算的に連続予測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初の機械設置が難しかったこともあり、夏以降の計測および機器整備に手間取り、追加の生理特性の計測を開始することができず、想定した予算を使用しきることができなかった。次年度の同じ時期にこれら計測を行うことで、当初の計画通りに予算を使用する予定である。
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