木材分析、とりわけリグニン構造分析において古典的な手法の一つであるアルカリ性ニトロベンゼン酸化の改良による生成物収量の増加を目的として、様々な反応助剤の添加による反応条件の検討を、今年度も引き続き行ってきた。 本研究課題の最終年度に当たる今年度は、前年度までに積み残した課題を実施した。すなわち、広葉樹木粉を対象として、アルカリ性ニトロベンゼン酸化生成物である芳香族アルデヒドならびに芳香族酸の収量の向上ならびに安定化を目指した反応助剤(安定化剤・反応促進剤)の添加効果の検証、ならびに反応条件の検討を行った。また、反応助剤の添加により、従来のニトロベンゼン酸化では得られない新規生成物の検出・定量も、同時に試みている。 まず、ホウ酸塩添加による安定化の検証を進めた。通常得られる反応生成物に加え、当初は、本来のニトロベンゼン酸化法では不安定で検出されないとされる新規生成物(例: カテコール骨格を有する化合物)を再現性良く定量する手法の確立を展望したが、その条件の確立にまでは至らなかった。また、相間移動触媒の利用など、反応促進剤に関する検証を行った。その結果、触媒量の添加(主酸化剤であるニトロベンゼンに対し、0.2当量程度まで)で、木粉試料の可溶化を促すとともに、ニトロベンゼン酸化生成物の一部に関し、収率向上が見いだされた。一方、過剰量の添加(主酸化剤であるニトロベンゼンに対し、当量程度)では、効果が頭打ちになるとともに、途中の分液操作が困難になった。この困難な課題は抽出操作前に、相間移動触媒を水不溶な化合物に導くことにより克服できた。 新型コロナ禍の下、研究面以外の対応を急遽求められ、研究に割り当てるエフォートが限られる中、1ヶ年間、当初の研究年限を延長することによって、研究進捗の遅れを取り戻すとともに、当初目的の一部ではあるが、実験的な検証結果を得ることができた。
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