研究課題/領域番号 |
18K05758
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 美由紀 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (20378912)
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研究分担者 |
則定 真利子 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 准教授 (00463886)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 木部形成 / 細胞壁 / 二次イオン質量分析法 / 同位体イメージング |
研究実績の概要 |
本研究では、樹木内における炭素の動きに注目し、光合成により吸収した炭素の木部細胞壁への固定という観点から木部形成過程を理解することを目指す。炭素の安定同位体である13Cで標識した二酸化炭素(13CO2)を樹木に一時的に与え、この標識13Cが木部に移動し木部細胞壁に固定される過程を追跡する。 2018年度は13CO2投与のタイミングおよび投与後の生育期間を変えて作出したポプラ(Populus alba x P. grandidentata)のシュートを試料とし、主に安定同位体質量分析計(IR-MS)測定による分析を行った。葉や師部、木部、さらに細胞壁、デンプン、可溶性成分に試料を分けてそれぞれの画分における13C比を測定し、光合成によって吸収された炭素がどのように木部形成中の樹体内を移動するのかを調べた。また二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた同位体マッピングにより標識13Cの分布解析を行った。 これまで同位体マッピングでは、高分子化し細胞壁に固定された標識13Cを対象として測定した。可溶性成分の分布を保存した試料の調製が難しく、安定して測定することができなかったためである。可溶性成分中の標識13Cを可視化することができれば、木部内での光合成産物の移動をより明らかにできると期待される。そこで2019年度には可溶性成分中の標識13Cを可視化することを目指して試料調製法を検討した。従来の固定・脱水と樹脂包埋の方法では可溶性成分の多くが試料調製中に流出するとみられる。試料を凍結乾燥することにより可溶性成分の保存が向上したが、試料の樹脂包埋に問題が生じた。そこで凍結乾燥木粉を用いた抽出実験と樹脂包埋実験を行い、改良方法を検討した。その結果、樹脂包埋前の溶媒処理によって可溶性成分の保存と樹脂浸透の状態をコントロールできることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに13CO2でラベルしたポプラ試料を作出し、IR-MSによる標識13Cのバルク分析と木部細胞壁の13Cイメージングを行い、13Cラベル条件の違いから木質細胞壁に至る光合成産物の動きについて検討した。また可溶性成分中の標識13C分布の分析については2019年度に試料調製法の検討を進めた。可溶性成分の保存について評価する方法を確立し、保存と樹脂包埋の状態をコントロールできるようになった。今後はSIMS測定に供する試料を調製して測定を進める予定であり、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に検討した試料調製法を用いてSIMSによる同位体イメージングを行い、標識13C分布の解析を進める。これまでは検出できていなかったと考えられる可溶性成分を、凍結乾燥法を用いた試料調製を用いて分析できると期待される。師部や木部放射組織についても分析を進め、分化中木部細胞への光合成産物の輸送に関する情報を得たい。師部や木部放射組織内の標識13Cを安定して検出することができれば、これまでの研究で得られた標識13C濃度の経時変化や異なる成分への分配と合わせて、光合成産物の木部への供給や細胞壁へ堆積過程について明らかにしたい。 また形態の保存に優れる凍結置換固定試料の電子顕微鏡観察と同位体イメージングからは細胞外への分泌直後の細胞壁成分を検出したとみられる像が得られている。IR-MSの結果から標識13Cの細胞壁への固定が活発に進行していると考えられる時期を選んで、細胞壁成分の分泌と堆積について細胞レベルの分析を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の試料調製法の検討では抽出実験や光学顕微鏡観察による評価を多く行ったため、SIMS測定に計上していた予算が次年度使用額となった。今年度のSIMS測定や電子顕微鏡観察に使用する予定である。
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