研究課題/領域番号 |
18K05759
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
山田 雅章 静岡大学, 農学部, 教授 (20293615)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 木材接着 / 制振 / 振動伝搬 / 動的粘弾性 / 損失係数 |
研究実績の概要 |
接着剤を用いて製造される木質材料の用途の一つに振動材料があるが、振動の増幅・伝搬を行う楽器等の音響機器と、遮断・吸収を行う壁、床といった建築系部材ではその性質が全く逆の傾向にある。本研究は製造環境、室内環境を考慮し脱ホルムアルデヒド化を目指しながら、過去に使用されていない様々な物性を有する接着剤を用いて、振動伝達および吸収を効果的に行える木質建材を開発することを目指す。1年目は様々な樹脂を接着剤として用いてパーティクルボード(PB)を作製し、PBの1次共振周波数における損失正接(tanδ)を測定することで、接着剤の違いによる振動特性の検証を行い、増幅・伝搬による活用と遮断・吸収による活用のどちらに使用できる接着剤なのかを振り分けることを目的とした。 両端自由たわみ振動法を用いてPBの tanδ を測定することにより、常温付近にガラス転移点(Tg)のあるスチレン-ブタジエンラバー(SBR)および水性高分子-イソシアネート接着剤(API)が振動の吸収を目的とした材料に、酢酸ビニル樹脂(PVAc)、ニカワ、常温よりもTgの高いSBR、ユリア樹脂が振動の伝搬を目的とした材料に適している可能性が示唆された。その中でも前記SBRが飛びぬけて tanδ が大きかった。この原因を探るために、成分が同一でTgを変えた(低温、常温、高温)3種類のSBRを用いて、接着剤フィルムのtanδ の温度依存性について検討した。その結果、20℃付近で常温TgのSBRの tanδ が最も高く、これがPBの tanδ が突出して大きかった原因だと考えられた。また、PBの tanδ と接着剤の tanδ の間には高い正の相関があり、接着剤の動的粘弾性からPBの tanδ を高い精度で予測できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗としては、おおむね順調に進展していると思われる。本研究の最終目的は、接着剤による振動伝達および吸収を効果的に行える木質建材を開発することにあるが、3年間の研究期間内には、接着層による振動伝達および吸収メカニズムの解明、接着剤の物性とそれら効果の相関を明らかにすること、およびPB中の接着剤存在状態の違いによる上記性質への関与を明らかにするところまでを行いたいと考えている。その中で、1年度目は様々な樹脂の中から振動の吸収性および伝搬性を有する樹脂を選定し、それらが何故振動に対するそのような性質を有するのかを検討することを目的としていた。その結果、振動吸収に優れる樹脂としてSBRとAPIを、振動伝搬性能に優れる樹脂としてニカワやUFを選定できた。また、振動吸収メカニズムを検討するため、接着剤の損失係数(tanδ)に着目したところ、PBのtanδは接着剤のtanδに依存することが明らかになり、振動吸収のメカニズムについても明らかになったことから、おおむね順調に進展していると判断した。 2年度目はPBの2次共振周波数以上の周波数域におけるtanδ を測定し、高周波数域における、つまりより広い周波数帯における振動の吸収・伝搬について検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
制振材料は振動エネルギーを熱エネルギーに変換することで振動を抑制するため、内部摩擦が大きな材料、つまり損失正接が大きな材料が用いられる。また制振性能は使用環境温度、加わる振動の周波数、振幅に影響されることがわかっている。1年度目の研究により、様々な接着剤で作製したPBの一次共振周波数の損失正接を求めたところ、この周波数における制振および伝搬性能は把握できた。しかし、この実験だけでは周波数が変わった際の特性は不明である。 そこで2年度目は、使用樹脂としてガラス転移温度(Tg)が自由に変えられ様々な振動特性を有すると予測されるアクリル樹脂エマルジョン(AE)を用いてPBを作製し、非強制加振(縦振動)、強制加振(中央加振)を行ってより広い周波数帯での損失正接を測定し、制振特性の周波数依存性を明らかにする。またTgが異なるAEをブレンドすることで広い温度域で制振性を付与できるかについて検討を行う。 さらに3年度目は、2年度目の内容を進めて目的とする振動特性を有する接着剤を開発するとともに、木材接着性についての検討を行う。一般的に接着剤はガラス転移点 (Tg) 付近の温度で接着強さのピークを示すことが知られているが、1年度目の研究により、振動吸収特性を持つ接着剤は常温よりも低い温度領域にTgを有し弾性率が比較的低く、振動伝搬特性はガラス状態にある熱可塑性樹脂接着剤が優れていることが明らかになっている。これらはどちらもTgが常温付近になく、接着性能が低く実用に耐えない可能性がある。そこで振動特性を維持したまま、接着性能を向上させる、つまり常温付近にTgが無くても高い接着強さを示す接着剤を開発することを目指す。Tg の異なるAEブレンド物 に架橋構造を加えることで接着強さの向上を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目に計画していた金額が余った理由は、3月に予定していた学会参加を体調不良のため中止したことによる。その分は、今年度、学会参加を積極的に行うために使用する。具体的には6月に開催される日本接着学会への参加を予定している。
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