接着複合体は用いる接着剤高分子の分子運動状態により振動を維持することも減衰することもでき、接着層を接着の機能だけでなく、振動促進・制御層として利用する新規木質材料を創出できる可能性がある。本研究では、振動抑制を中心に、常温で損失係数が大きな振動減衰に優れた樹脂を用いることに加え、架橋剤、セルロースナノファイバー(CNF)などの添加や木質材料の種類や製造方法を変えることで新規木質振動制御材料を作製するための基礎的研究を行った。 昨年度(2年目)は、様々な振動特性を有する数種類のアクリル樹脂エマルジョン(AE)を用いてPBを作製し、広い周波数範囲におけるtanδを測定したところ、室温でゴム状態にあるAEのブレンド量が多いとPBのtanδが高くなり、木質材料の制振性が大きくなることがわかった。一方、振動吸収特性を持つ接着剤は常温よりも低い温度領域にTgを有し弾性率が比較的低く、接着性能も低いため実用に耐えないことも明らかとなった。 そこでR2年度(最終年度)は、振動特性を維持したまま接着性能を向上させることを目指して、常温付近での振動吸収性能と接着性能との両立を狙い、Tgの異なるAEブレンド物に架橋構造を加えることやCNF添加について研究を行った。その結果、制振性能が高いAEのブレンド量を増やした系では、過去に無い制振性能が得られた一方で強度は低下したため、試験温度付近にTgを有するAEをブレンドしたところ接着性能の向上が見られた。また、架橋性高分子であるpMDIで架橋した PVAを添加することで接着性能の向上が見られ日本農林規格の1類合板規準を満たした。また、凍結乾燥CNFを添加した全てのAEで圧縮せん断強さが20~40%ほど上昇した。これら知見を組み合わせることで。高い接着性を有しながらも、制振性能に優れた木質材料を開発することが可能となると考えられる。
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