研究課題/領域番号 |
18K05760
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
粟野 達也 京都大学, 農学研究科, 助教 (40324660)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射柔細胞 / 接触細胞 / 隔離細胞 / 木部繊維 / 網羅的免疫標識 / 敵対的生成ネットワーク / バーチャル免疫標識 |
研究実績の概要 |
広葉樹材の放射柔細胞は他の構成要素とは異なる機能を有しており、細胞壁の構造や組成が異なるが、非セルロース性多糖類や糖タンパク質の分布は明らかではない。そこで、モノクローナル抗体を用いた網羅的免疫標法によりポプラ放射柔細胞壁でのそれらの分布を観察した。ペクチンに関しては、アラビナン、アラビノガラクタンおよびラムノガラクツロナンIの標識が細胞壁最内層と壁孔膜に見られた。ヘミセルロースに関しては、キシラン、マンナンの標識が二次壁で見られ、キシログルカンの標識は複合細胞間層と壁孔膜部に見られた。ヘミセルロースの分布は木部繊維と共通しているが、ペクチンおよび糖タンパク質の分布は木部繊維と異なっており、ペクチンおよび糖タンパク質は放射柔細胞の機能と何らか関係があると考えられる。 放射柔細胞には道管要素と壁孔を介した連絡を持つ接触細胞と連絡を持たない隔離細胞があるが、隔離細胞にはラムノガラクツロナンIの標識がみられる細胞と見られない細胞があることを見出した。これらは放射組織内での配置が異なり、標識が見られる隔離細胞は放射組織の上下端の2-3列に、標識が見られない隔離細胞は放射組織の中央部に存在することが明らかとなった。 連続切片を用いて複数種の抗体標識を比較する方法では切片間で組織構造が異なるため、厳密な比較が難しい。この問題を解決するため、敵対的生成ディープラーニングによるバーチャル多重免疫標識技術を開発した。免疫蛍光標およびオーラミンOによる細胞壁染色を施した切片より同一領域の抗体標識像および細胞壁染色像のペアを作成し、敵対的生成ディープラーニングにより学習させた。細胞壁染色画像から生成したモデル画像は実際の免疫標識像とよく一致していた。局在性の異なる3種のキシラン抗体について、同一の細胞壁染色画像からそれぞれの免疫標識モデル画像を生成し、相互に比較することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
免疫金標識・透過電子顕微鏡法で広葉樹材の放射柔細胞における非セルロース性多糖類および糖タンパク質の免疫局在を網羅的に観察した。その結果、放射柔細胞には道管要素と壁孔を介した連絡を持つ接触細胞と連絡を持たない隔離細胞があるが、ラムノガラクツロナンIの標識がみられる隔離細胞と見られない隔離細胞があり、標識が見られる隔離細胞は放射組織の上下端の2-3列に、標識が見られない隔離細胞は放射組織の中央部に存在することが明らかとなった。このことは、細胞形態ではなく非セルロース性多糖類の分布様式により細胞の区分ができることを示しており、当初の期待通り免疫標識法による細胞の区別ができることを示した。 汎用の96穴マイクロプレートに円形カバーガラスを落とし込み,通常のELISA法と同様に免疫標識を行うことを検討した。直径5mmの切片剥離防止処理(MASコート)カバーガラスを特注で設計し、マイクロプレートウォッシャーで問題なく使用できることを確認した。しかし、染色後の円形カバーガラスを回収する過程でしばしば破損することが判明し、効率よく観察を進めることが困難であることが判明した。本課題の実施期間中での問題解決は難しいと判断した。 網羅的な免疫標識データを客観的かつ精度よく比較するため、敵対的生成ディープラーニングによるバーチャル多重免疫標識技術を開発した。免疫蛍光標および細胞壁染色を施した切片より同一領域の抗体標識像および細胞壁染色像のペアを作成し、敵対的生成ディープラーニングにより学習させた。細胞壁染色画像から生成したモデル画像は実際の免疫標識像とよく一致していた。この手法を複数の抗体について適用し、同一の細胞壁染色画像からそれぞれの免疫標識モデル画像を生成し、相互に比較することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、スライドガラス4枚を96穴マクロプレートシステムで使用するためのアダプタを作製する予定であったが、96穴プレートでは液漏れが発生し、免疫標識に使用することができなかった。そのため、切片剥離防止処理を施した直径5mmのカバーガラスを作製し,汎用の96穴マルチプレートに落とし込んで通常のELISA法と同様に免疫標識を行い、プレートウォッシャー等が問題なく利用できることを確認した。しかし、カバーガラスを回収する際に高頻度で破損することが判明し、効率よく観察を進めることができなかった。これについては根本的な見直しが必要となるため、本課題実施期間中での改善は困難と判断した。 連続切片を用いて複数種の抗体標識を比較する方法では切片間で組織構造が異なるため、厳密な比較が難しい。この問題を解決するため、敵対的生成ディープラーニングによるバーチャル多重免疫標識技術を開発した。複数の抗体について、同一の細胞壁染色画像からそれぞれの免疫標識モデル画像を生成し、相互に比較することが可能となった。本年度は免疫標識モデル画像がどの程度の精度で実際の免疫標識を再現できているのかを客観的な指標で評価できるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症により実験停止期間が生じ、十分な回数免疫標識実験を行うことができなかった。またそれに伴い、使用予定であった抗体試薬の購入を見合わせたため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、研究成果の取りまとめ(論文投稿費用等)に充てる。
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