研究課題/領域番号 |
18K05766
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤本 登留 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80238617)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 木材乾燥 / 薬剤注入性 / アカマツ心持ち正角材 / 野球バット / 響板 |
研究実績の概要 |
薬剤注入性考慮型乾燥条件の検討: 耐久性を保持した木材製品の作製では薬剤注入性の確保が必要である。一方、スギの資源状況は伐採期を迎えた大径木の割合が増加し、心材の有効利用も耐久性の維持には有効と考えられる。スギ心持ち正角材もすべて心材で作ることができる状況であり、高温セット法と呼ばれる100℃以上の高温処理で表面割れを抑える処理なしに中温程度で割れ発生がある程度抑えられた乾燥ができれば、比較的耐久性を保持した乾燥ができるものと考えられた。そこで薬剤注入性改善の前に、まずすべて心材で出来た心持ち正角材が中温乾燥で割れ欠点がどの程度生じるかを検討した。その結果、辺材を含むと大きな割れが発生する中温乾燥でも、全て心材の心持ち正角材は問題にならない程度の割れ幅で乾燥を仕上げることが可能であることが認められた。 野球用バットの動的強度特性考慮型含水率条件の検討: 独自に開発されたマイクロ波加熱バット含水率調整装置を用いてバットを加熱する際にサーモグラフィーによるバット加熱温度の測定ができることを確認中。加熱ムラが認められたので、その温度ムラの変化を今後測定予定。 (計画外)アカマツ心持ち正角材の割れ止め乾燥の検討: 資源的に比較的多いアカマツは樹幹の通直性に劣ることから歩留まりも低く、さらに心持ち材は割れが激しいことから、曲がり梁以外にはチップ用材として利用されているに過ぎない。しかし、松くい虫対策や付加価値向上から、可能な範囲で構造用材などへの利用を進める必要がある。そこで、割れ止めが難しいと言われているアカマツ心持ち正角材の割れ抑制乾燥技術を検討し、比較的温度高めの高温セット法により可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
薬剤注入性考慮型乾燥条件の検討:スギ心持ち正角材の乾燥試験について、薬剤注入性を検討する前に必須条件として割れがない手法を心材正角材で試験したところ、前例が見られない中温乾燥のみで心持ち正角材の割れ発生の抑制が認められた。そこで、心材のみのスギ心持ち正角材の割れ抑制条件、およびその要因を検討する必要があり、薬剤注入性の試験はまだできない状況である。現状は幅広い温度条件、湿度条件で100℃以下の中温乾燥の概略の適正条件が明らかになったところである。 野球用バットの動的強度特性考慮型含水率条件の検討:愛知県の協力業者所有のマイクロ波加熱バット含水率調整装置を用いて現地で借用実験できるようになり、まだサーモグラフィーをセットして予備測定できたところであり、具体的な実験はまだできていない。 (計画外)アカマツ心持ち正角材の割れ止め乾燥の検討:まだ、割れ止め条件を1条件でたまたま成功している段階であり、2回の繰り返し乾燥実験を行った状況である。割れ止め条件である高温セット法でも比較的高温を1条件行っているが、実用上低温での処理が求められており、温度や時間の適正条件を比較検討する必要がある。目的が建築構造材であることから、品質は割れのみではなく、材色や変形を見た乾燥試験を行う必要があるが、大学での装置による実験で、短い材料で行っているため曲がり変形を測定することができていない。次年度は他機関での実大材料の実験を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
薬剤注入性考慮型乾燥条件の検討:スギ心持ち正角材の乾燥試験について、全て心材の場合の100℃以下の中温乾燥適正条件を明らかにするとともに、源平(心材、辺材を含む)の板材の乾燥条件として40℃・85%RH,40℃・40%RH,80℃・85%RH,80℃・40%RHでの4条件で乾燥処理した材に薬剤注入試験し、乾燥条件の薬剤注入に対する適性を比較検討する。 野球用バットの動的強度特性考慮型含水率条件の検討:マイクロ波加熱バット含水率調整装置を用いた場合の加熱ムラの測定をサーモグラフィーで測定し、重量の変化に基づく重心の変化や慣性モーメントや固有振動数の変化を測定して、微妙な乾燥によるバット性能の変化を調査する。 (計画外)アカマツ心持ち正角材の割れ止め乾燥の検討:まだ、割れ止め条件を1条件しか行っていないため、さらに低温での乾燥による割れ発生状況の調査を行う。さらにアカマツの欠点となる曲がり変形の調査を行うため、実大長3mでの乾燥を他機関実証機で試験する。さらに、その曲がりが実用上問題となる大きさの場合は、乾燥時点の曲がり拘束を行った際の曲がり抑制効果を検討する。 楽器音響特性考慮型乾燥条件の検討:楽器響板等の響き(対数減衰率)に対する乾燥条件、熱処理の影響について検討する。スプルースの板材とともに高齢級スギ柾目板についても供試する。乾燥条件については60℃、100℃、140℃について比較検討する。ただし、その湿度条件についても影響があるかどうかを調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
薬剤注入試験を実施する前に、心材のみの心持ち正角材の割れ抑制乾燥の乾燥性が認められたことから、この新規性を確認することが必要となり実大の薬剤注入性試験を含めた乾燥試験ができなかった。さらに、愛知県での野球バットのマイクロ波加熱処理が準備できず、本実験が次年度になったことなどが原因となり、次年度支出計画となった。
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