研究課題/領域番号 |
18K05768
|
研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
足立 幸司 秋田県立大学, 木材高度加工研究所, 准教授 (70451838)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 比弾性率 / スギ / 曲げ木 / 応力波伝播速度 / 形状比 |
研究実績の概要 |
天然スギと造林スギの個体間の材質変動を明らかにするために,天然スギ林および造林スギ林での林分調査を行った.造林スギ林については,施業条件の異なる林分を設定した.初めに,立木の比弾性率の推定精度の向上を目的として,応力波伝播速度の木材含水率の依存性を明らかにし,測定値の補正に用いる検量線を作成した.その後,立木状態での樹幹方向の応力波伝播速度と樹高,胸高直径を計測した.また,曲げやすいスギの供給持続性の確保に向けて,需要者への曲げ加工適性木の選別方法に関する聞き取り調査を行った. 曲げ加工に適するスギとそれ以外のスギの比弾性率と樹幹の形状比(樹高/胸高直径)を比較したところ,60~75年生の林分では正の相関を示した.すなわち,形状比の小さい,ずんぐりした個体ほど比弾性率も小さく,曲げ加工に適していることが明らかとなった.施業条件の異なる林分で同様の傾向が確認された.一方,100年生を超える個体では相関が確認されなかった.これは,高樹齢材では梢の損傷や高木化による樹高推定精度の低下が要因と考えられた. 需要者への曲げ加工適性木の選別方法に関する聞き取り調査の結果,応力波速度測定器を用いない,より簡便な手法構築への期待が高かった.60~75年生の形状比と比弾性率の相関が認められたため,通常の施業業務で取り組んでいる樹幹調査の結果を援用した選別方法が構築できる可能性が示唆された.その場合,高樹齢になるほど樹高の推定精度の低下が懸念されるため,長伐期施業初期,80年生以前での選別が望ましいと推察された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画で2年目の実行を予定していた天然スギ林と施業条件の異なるスギ人工林の調査の前倒しが可能となり,曲げやすさの指標となる比弾性率を説明できるモデル式の構築に必要な生育条件(地位,施業条件,樹齢)の取得と多変量解析を先行して取り組み,次年度以降の調査要項の絞り込みを初年度に進めることができた.一方で,当初予定していたスギの個体内材質変動の評価試験である,晩材仮道管S2層のミクロフィブリル傾角の測定はサンプルの調製までとした. 当初導入を予定していたインパルスハンマーによる加工適性木の選別方法よりも,簡便な手法を構築できる可能性が示されたため,当該費用は試験体数が多量なミクロフィブリル傾角測定の効率化のための加工器具に充当することで,作業を順調に進められた.
|
今後の研究の推進方策 |
曲げやすさの推定精度が高樹齢化によって低下する可能性のあることが示されたため,当初計画していた奈良県吉野地方での高樹齢林の調査より,秋田県内の若齢林の調査を強化する.また,形状比という新たな材質指標が見出されたため,ミクロフィブリル傾角測定を主体とした材質試験の研究体制強化のために研究分担者を追加する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度に導入を予定していたインパルスハンマ-(物品費,350千円)は,研究の前倒しによって得られた成果によって重要度が低いことが明らかになり購入を取りやめたことが,次年度使用額を生じさせる最大の原因となった.一方で,ミクロフィブリル傾角測定用の薄層サンプルの重要性が増したため,切削加工器具(261千円)を新たに導入した.次年度使用額は切削加工器具の消耗品費および研磨加工費に充当する予定である.
|