前年度までにスギの曲げ特性は、生育環境によって形成される樹形が大きく影響していることが明らかした。60~75年生の施業条件の異なるスギ人工林12カ所の調査結果から、健全木と被圧木に因らず、立木の形状比(樹高/胸高直径)と曲げにくさの指標である比弾性率(繊維方向の曲げ弾性率/気乾密度)に正の相関が示された。また、天然スギと造林スギの比弾性率の樹幹内半径方向変動に関して、未成熟材から成熟材に移行時の比弾性率の増加倍率は、造林スギは1.6倍に対し、天然スギは1.2倍に留まり、挙動の相違を明らかにした。 最終年度は、天然スギと造林スギの未成熟期から成熟期における組織構造と材質の関係を検討した。造林スギでは平均年輪幅と晩材率の間に成長期によらず負の相関が示され、これは既往の報告と同様であった。一方、天然スギでは未成熟期は造林スギと同様の傾向を示したが、成熟期では平均年輪幅と晩材率に正の相関が示された。また、髄からの年輪数が大きいほど晩材率が低くなる傾向であり、二次壁の肥厚が進展しにくい老齢過熟の状態と類似した。奈良県の春日杉を対象とした既往の研究では、天然スギの繊維方向弾性率の顕著な低下は200年輪より外側で生じていたが、秋田県産の個体を用いた本研究では60年輪で同様の傾向が確認された。これは、東北日本海側の豪雪等の気象要因の相違が考えられるが、今後の検証が必要である。 本研究において、立木の形状比が曲げ特性に影響を及ぼしていること、平均年輪幅と比弾性率に関連性が認められないことから、成長に伴う幹や樹冠の増大によって立木表面に生じる応力状態が仮道管の材質形成に影響を及ぼすことが推察された。 老齢過熟状態への施業での誘導は困難であるため、形状比の小さい林分をゾーニングし応力伝播法等の非破壊的手法で選別する手法が最も実用的であると判断された。本手法は大館曲げわっぱの製造企業に採用された。
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