研究課題/領域番号 |
18K05770
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
河村 文郎 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80353655)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 樽酒 / スギ心材成分 / ノルリグナン / アミノ酸 / 味覚 |
研究実績の概要 |
実際に木樽に使用される天然乾燥された約70年生のスギ心材を粉砕し、試料粉末を得た。日本酒の平均的なエタノール濃度は15%であるため、この試料から15%エタノール水溶液を用いた常温抽出(24 h x2)を行った。抽出溶液を乾固し、スギ心材抽出物を得た。スギ心材の主要なノルリグナン類であるセキリン-C及びアガサレジノールに関して、標品及び抽出物の超高速液体クロマトグラフィー分析を行ったところ、これらの成分の抽出物に対する含有率は、それぞれ、14.2%、13.3%であった。スギ心材抽出物を市販日本酒に添加して樽酒モデル飲料を調製した。文献記載値を参考にして、モデル飲料中のノルリグナン類濃度は、スギ樽酒における平均的濃度、高濃度、過剰濃度(平均的濃度の10倍)とした。これらの試料について、暗所、常温で3週間放置(エージング)した後、味覚測定装置(Insent社, TS-5000Z)を用いて味覚を測定した。得られた味覚のデータは無添加の市販日本酒(コントロール)に対する相対値として数値化した。その結果、平均的濃度のモデル飲料ではわずかな差しか現れなかった。一方、高濃度のモデル飲料では明確な味の違いが確認され、コントロールに対して、主に苦味(後を引く味:後味)、塩味、苦味雑味(すっと消える味:先味)が増加し、旨味もやや増加した。このように、スギ心材抽出物の日本酒中での存在は、複数の味の要素を少しずつ増加させ、その結果、味の「複雑さ」に寄与するものと推定した。また、今回使用した味覚測定装置では、樽酒モデル溶液の味覚の数値の差が顕在化するためにはスギ心材抽出物の濃度が10 ug/mL以上必要であることが分かった。過剰濃度のモデル飲料では、後味の一つである苦味が顕著に増加し、味のバランスが崩れていることが覗えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当年度は、市販の日本酒とスギ心材抽出物を用いて樽酒モデル飲料を調製し、同一条件でエージングした際のコントロール(日本酒のみ)に対する味覚の数値の変化を明らかにした。しかしながら、アミノ酸の組成・濃度への影響に関する実験は未実施であることから進捗は遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当年度に使用した味覚測定装置では、甘味の感度が非常に低く、実質的にデータを得ることができなかった。また、味覚の数値データは、基準となる試料との差としてしか得られず、基準となる試料と測定対象試料の味が大幅に異なるときは測定できない、等問題が多いため、今後は他の味覚測定装置の併用も予定している。樽酒モデル飲料と同時に15%エタノールに溶解させたスギ心材成分(日本酒を含まない)の味覚の測定、エージングの時間や温度の味覚への影響についても確認する。樽酒モデル飲料とコントロールをエージングし、エージング前後でのアミノ酸の組成・濃度を測定し、樽酒モデル飲料におけるスギ心材成分の影響を明らかにする。さらに、スギ心材抽出物の分画(大まかな成分の分離)を行い、得られたフラクションを用いて樽酒モデル飲料を調製し、味覚の測定を行うことによって、味覚に対する影響の大きいフラクションを特定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
味覚測定に関して何点か改善すべき点が見られたため、測定を中断した。次年度は、複数の味覚測定装置を用いる(受託分析)予定であり、かなり多額の支出を見込んでいる。また、アミノ酸分析用試薬をはじめ各種消耗品費の支出も必要である。
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