研究課題/領域番号 |
18K05770
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
河村 文郎 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80353655)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 樽酒 / スギ心材成分 / ノルリグナン / sequirin-C / 味覚 / 苦味 / 甘味 |
研究実績の概要 |
前年度までにスギ心材抽出物中のsequirin-Cが味覚に大きい影響を及ぼすことを明らかにした。当年度は10社の市販樽酒についてノルリグナン類濃度の定量分析を行った結果、ノルリグナン類濃度及びsequirin-C/agatharesinol比共に多様性が見られた。これら分析結果並びに文献記載値を参考にしてスギ心材抽出物濃度を5段階に調製した樽酒モデル飲料を調製し、味覚センサーを用いて味覚を測定し、無添加の日本酒(コントロール)と比較した。コントロールに対する樽酒モデル飲料の測定値の変化は、甘味の減少についてはsequirin-C終濃度約1 ug/mL以上で、苦味の増加では約3 ug/mL以上でレベル0.2以上の差が生じ、ヒトに感知可能と推定された。市販樽酒に含有されるsequirin-Cの定量結果を参照すると、2社で苦味の増加が、5社で甘味の減少が感知可能と考えられた。Sequirin-Cは水/エタノール等の中性溶媒中で非常に不安定であるため、sequirin-Cの日本酒中での安定性について検証した。市販日本酒及び15%エタノールにスギ心材抽出物を添加し、市販樽酒で報告例のある濃度に調製した。これらをエージングし、ノルリグナン類濃度を6ヶ月間経時的に測定した。その結果、25℃, 2日後にsequirin-Cは、15%エタノール中では完全に消失したが、日本酒中では100%残存していた。日本酒中で低温長期保存した場合、sequirin-Cは、6ヶ月後に85%程度残存し、顕著に安定化することが明らかになった。また、Agatharesinolも日本酒中で安定化する傾向が見られた。このような安定化作用は日本酒の有する弱酸性の緩衝能に起因すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、味覚センサーを用いた測定により樽酒モデル飲料の味覚を数値化することにより、スギ心材抽出物は苦味及び甘味に大きい影響を及ぼし、日本酒の味を辛口寄りに変化させることが分かった。味覚に影響を及ぼすスギ心材成分として、ノルリグナン類のsequirin-C及びagatharesinolを特定し、特にsequirin-Cの影響が大きいことを明らかにした。さらに、Sequirin-Cは、15%エタノール等の中性溶媒中で極めて不安定であるが、日本酒中では顕著に安定化し、樽酒を保存するとき長期間に渡って味覚に影響を及ぼすことを明らかにした。樽酒モデル飲料をエージングし、エージング前後でのアミノ酸の濃度を測定し、コントロール(スギ心材抽出物を添加しない市販日本酒)と比較した結果、スギ心材抽出物は、樽酒モデル飲料に含有されるアミノ酸の濃度・組成を変化させないことが分かった。この結果から、樽酒の保存において、アミノ酸濃度の減少に起因する旨味の減少は起こり得ないと考えられた。市販樽酒に含有されるノルリグナン類の定量とスギ心材抽出物濃度を変えた樽酒モデル飲料の味覚センサーによる測定結果から、半数程度の商品において味覚の変化がヒトに感知可能と推定された。以上の概要のとおり課題立案時の目的は達成されており、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに樽酒モデル飲料の味覚にはノルリグナン類のsequirin-Cが大きい影響を及ぼし、本成分は中性溶媒中では非常に不安定であるが、日本酒中では顕著に安定することを見出した。今後の推進方策として、具体的に以下の研究内容を予定している。1) 中性溶媒中と日本酒中でのノルリグナン類の安定性について複数メーカーの日本酒を用いて確認する。2) ノルリグナン類の安定性について、焼酎やワインなど日本酒以外の酒類を用いて実験し、日本酒の結果と比較する。3) 酒類に含有されるsequirin-C以外のカテコール核を有する成分(catechin, epicatechin, quercetin等)について中性溶媒中と日本酒中での安定性を確認する。4) 日本酒のコクに影響する糖化反応(メイラード反応)に対するスギ心材抽出物の作用について明らかにする。以上の実験に加え、これまでに得た樽酒モデル飲料等の味覚数値の再測定によるデータの再現性確認を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的な蔓延の影響で、参加予定であった国際学会が延期されたため、多額の次年度使用額が生じた。また、国内の学会大会には参加、発表することができたが、オンライン開催であったため、旅費は不要となった。国内での新型コロナウイルス蔓延の影響で、味覚測定を委託していた会社が分析受託を中断したため、予定していた味覚測定を全て行うことはできなかった。以上が次年度使用額の生じた主要な理由である。次年度使用研究費の使用計画としては、国際学会への参加費及び旅費、比較的高額となる味覚測定によるこれまでのデータの再現性確認、各種試薬、ガラス器具及び高速液体クロマトグラフ用カラム等の購入を予定している。
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