研究課題/領域番号 |
18K05772
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
久保 智史 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (50399375)
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研究分担者 |
戸川 英二 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60343810)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | セルロースナノファイバー / 核磁気共鳴分析 / 運動性 |
研究実績の概要 |
酵素・湿式粉砕法で調製した水懸濁セルロースナノファイバー(CNF)の核磁気共鳴分析(溶液NMR)では、CNFを構成するセルロース鎖に由来する明確なシグナルが観察された。限外ろ過膜を通過したCNF画分のNMR分析では、セルロース構造に由来するシグナルの強度が限外ろ過処理前の試料に比べて著しく低かった。このことから、酵素・湿式粉砕法で調製したCNFの表面には比較的運動性の高いセルロース鎖が存在することが示唆された。このCNF懸濁液を凍結乾燥することで得られた乾燥CNFを各種溶媒に再度懸濁させたところ、再膨潤の度合いは特に水、DMSO中で高かった。水中で再膨潤させた乾燥CNFのNMR分析では、セルロース構造に由来するシグナルが明確には観察されなかったことから、乾燥工程を経ることでセルロース鎖の運動性に変化があることが示唆された。またDMSO中で再膨潤させた乾燥CNFのNMR分析では、キシランに由来するシグナルが観察された。乾燥工程を経た場合でもDMSO中では、キシランが運動性の高い構造としてCNFの再膨潤に関与していると考えられる。またCNFの凍結乾燥以外の方法で脱水、乾燥(気乾、凍結乾燥条件の変更の他メタノール中で沈殿等)したが、メタノール中で沈殿させる方法以外では、DMSO中での乾燥CNFの膨潤性に大きな違いはなかった。X線回折では、セルロースIの構造が確認できた。またセルロースナノクリスタル(CNC)の乾燥物では、セルロースIと共にセルロースIIの存在が確認できた。CNCのセルロースII型構造は、CNC調製中に膨潤・部分溶解したセルロースが再結晶化することで形成されたと考えられる。CNFの場合には溶媒中でセルロース鎖の一部が運動性の高い構造として存在するが、乾燥工程を経てもセルロースII型構造が確認できず、セルロースI型の構造を維持していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標が、酵素湿式法で調製したCNFの膨潤性に関するものと、膨潤によるセルロースの結晶構造の変化を明らかにすることであった。これら目的に関しては、概要で記述したとおり概ね精査できている。このことから進捗状況を「おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られたCNFの膨潤構造をターゲットとしたCNFの化学的修飾法を開発する。また化学修飾する際には、セルロースI型の構造を維持する条件での修飾を行う。現状では当初の研究計画に変更をともなうような結果が得られていないことから、当初計画に従い研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
不測の事態として、本科研費で使用している核磁気共鳴装置の検出器が故障し、予定していた試料の測定が不可能になった。核磁気共鳴装置による分析は本年度の中心課題であることから、当初使用を計画していた物品の購入費を核磁気共鳴装置の修理費用として変更した。購入を予定していた物品を使用する課題は主として次年度以降に計画しているが、当初計画の物品を変更して研究計画に大きな変更を来すことがないように繰り越した経費を使用する。
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