酵素湿式粉砕法で調製されるCNFは、一反乾燥した後もDMSO等の親水性有機溶媒中で良好な膨潤性を示す。前年度までに、この溶媒への膨潤特性を利用することで、結晶構造を維持した状態でのCNFのアルキル化が可能であることを示した。今年度は、アルキル化CNFの汎用樹脂であるポリプロピレンとの混練性改善効果に関する検討を行った。前年度までの成果により、C1~C16の範囲の異なるアルキル鎖長を持ちかつ天然セルロースが持つI型結晶構造を維持した化学修飾CNFが調製できた。今年度は、その条件をもとに、樹脂との混練試料としてブチル化(C4)、ヘキシル化(C6)CNFを調製した。CNFに各アルキル基が導入されていることはFT-IRの水酸基に帰属されるシグナルの減少とメチレンバンドの強度増加から確認した。またCNF表面のアルキル化は、水に対する撥水性の発現からも確認できた。アルキル化CNFとポリプロピレンとの混合は、ラボプラストミルでアルキル化CNF濃度を1%とし180℃で行った。各試料の混練は混練速度一定のもとで行ったが、誘導体化前後で混練時のトルクはほぼ等しい値を示した。混練樹脂の目視による観察では、誘導体化前のCNFは凝集することでPP成分から分離していたのに対して、アルキル化試料を使用したPP複合体では各成分が分離した状態は確認できなかった。光学顕微鏡による観察では、アルキル化CNFもPPと完全には、均一混合されていない様子が確認されたが、誘導体化前のCNFに比べて、PP中でより分散している様子が確認できた。以上の結果から、表面をアルキル化することでCNFがPP中で高分散していることからより均一なCNF複合体の製造が可能であると期待できる。一例としては、アルキル化CNF/PP複合物は溶融紡糸による繊維化が可能であった。
|