研究課題/領域番号 |
18K05779
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西部 裕一郎 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50403861)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動物プランクトン / カイアシ類 / 休眠 / 生活史 / 地理的変異 / 沿岸域 |
研究実績の概要 |
沿岸性カイアシ類Acartia hudsonicaの生活史と卵休眠の地理的変異を明らかにするために、舞鶴湾において採集された動物プランクトン試料を分析し、本種個体群の季節的消長を昨年度までに大槌湾から得られた結果と比較した。舞鶴湾ではA. hudsonicaは11月から出現し始め、1月から5月にかけて比較的高い個体数密度で変動を繰り返した後、6月に急激に減少し、7月には出現が全く見られなくなった。同様の季節的消長は翌年も確認されたことから、舞鶴湾ではA. hudsonicaは夏季から秋季にかけて水柱から完全に消失し、翌期のプランクトン個体群の形成は海底の休眠卵から孵化した個体に由来すると考えられた。舞鶴湾よりも北に位置する大槌湾では、A. hudsonicaは夏季から秋季にかけて低密度ではあるが水柱に出現すること、本種は東アジアから北アメリカにかけての沿岸域に分布する冷水性種であることを考慮すると、舞鶴湾における夏季から秋季にかけてのプランクトン個体群の消失は高水温による制限を受けた結果と考えられた。また、大槌湾のA. hudsonicaは、狭義の休眠卵と比べて休眠期間が短く(現場水温下で10日間から2ヶ月間程度)、ブルード内で卵の休眠期間が非斉一な緩発性休眠卵と呼ばれる卵を産むが、舞鶴湾では夏季から秋季の4ヶ月程度の期間を海底において休眠卵の状態で過ごす必要があるため、大槌湾の個体群とは生理的特性が異なる休眠卵(より休眠深度の深い卵)を産むことが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
舞鶴湾においてAcartia hudsonicaの産卵実験を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言によって4月から5月の適期に調査・実験を行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度実施できなかった舞鶴湾における野外調査と飼育実験を実施する。また、大槌湾と舞鶴湾から採集したAcartia hudsonicaを実験室内で経代飼育し、それぞれの個体群において休眠卵生産を誘導する環境要因(水温、餌濃度、個体数密度等)を明らかにする。さらに、休眠卵生産の環境応答性を湾間で比較することで、本種の卵休眠の地理的変異について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、今年度は舞鶴湾での野外調査・飼育実験を予定していたが、実施できなかったため、これに要する旅費、物品費が未使用となった。繰越金については、次年度実施予定の舞鶴湾での野外調査の旅費と物品費、室内飼育実験に要する物品費として使用する予定である。
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