研究課題/領域番号 |
18K05780
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
横田 賢史 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00313388)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | チュウゴクモクズガニ / 外来種 / 種間競争 / 個体群モデル / シミュレーション |
研究実績の概要 |
チュウゴクモクズガニの国内での個体群形成と定着のリスクを評価するための室内実験および生活史情報を用いた個体群行列モデルによる解析を実施した. チュウゴクモクズガニは日本国内では特定外来生物に指定されており,東京湾内でも成体が観察されているが,不明な点が多く,同属のモクズガニへの影響が懸念される.ここでは,室内の水槽内において2種の隠れ場所をめぐる競合についての観察を行った.チュウゴクモクズガニおよびモクズガニの成体を雌雄および体サイズの全ての組合せで水槽内に1個体ずつ投入してビデオ観察を行った.隠れ場所をめぐる競合は体サイズに大きく依存したが,同サイズの場合には在来のモクズガニが常に隠れ場所を占有し,チュウゴクモクズガニはモクズガニよりも体サイズで10%程度大きい場合には占有できることが明らかになった.さらに,競合の際にモクズガニは積極的な威嚇行動を示すことが多く,消極的な行動はチュウゴクモクズガニに比べて少なかった. チュウゴクモクズガニは北米と欧州に侵入・定着し,多大な生態的,経済的損害を与えている.本種の有効な侵入拡大を抑制するための対策を考える上で,個体群の成長力は重要な生態情報である.行列式を用いた個体群モデルは,これまでの生活史から個体群の成長力を推定することができる.チュウゴクモクズガニに関する生態に関する野外調査と室内実験の文献をもとに夏季と冬季(繁殖期)の2期に分割した行列モデルを構築した.密度独立なパラメータ値から求めた個体群の成長率は1.301と推定され,将来の個体の繁殖的な貢献度を示す繁殖価は夏季のミドルサイズの個体が最も高くなった.感度分析により,幼生発達段階の水温と生存環境が最も個体群の成長に影響することを明らかとなった.また,個体群の成長を抑制するために,侵入から早期の段階で駆除を進めていくことが有効であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チュウゴクモクズガニの日本国内への侵入定着に伴う在来生物への影響を評価することを目的に調査・実験およびモデル解析を実施する予定で本研究課題を進めている.チュウゴクモクズガニと在来モクズガニの競合に関しては成体での隠れ場所をめぐる競合は学術雑誌に公表した.モデル解析においては,これまでのチュウゴクモクズガニに関する生活史や生態に関する研究報告に基づいて行列モデルを作成し,個体群成長率と成長率に与える生活史パラメータの感度分析,個体群形成を阻止するための駆除の効果を数値シミュレーションにより明らかにし,学術雑誌に公表した. 昨年度より開始している3つの課題については,おおむね予備実験・予備調査の段階にある.標識放流による急流河川での移動経路の解明については,脱皮により脱落の可能性の低いICタグを体内に埋め込み脱落割合を実験室内で観測している.埋め込みに伴う死亡および脱皮の際の脱落はわずかに観察されているが,成体サイズのカニでは概ね利用可能であると考えている.実験河川の予備調査において成体カニを採集し,標識装着のために飼育している.幼生飼育については,チュウゴクモクズガニの抱卵個体が入手できないため当初の計画通りに進んでいない.特定外来生物であるため国内での入手が困難であり,原産地中国での実験を検討するなどの対策が必要である.個体群動態モデルについては,前述の行列モデルをベースに2種間の関係性を取り入れたモデルに発展させている.隠れ場所をめぐる競合実験結果に加えて,これまで行ってきた成体カニの幼生ガニ捕食・共喰いの結果ならびに餌をめぐる競合等の研究報告を参考にしてモデルの構造ならびに具体的なパラメータ値の検討を進めている.本研究課題の初年度であるため,研究報告あるいは学術雑誌投稿のための文章作成には至っていないが,一部を除いてほぼ計画通りに研究を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
調査対象となる河川においてICタグを装着した成体ガニの放流・採捕実験を開始する.繁殖期に入る秋季までに成体カニを河川上流に放流し,下流への移動割合を観察する.タグによる個体識別により個体別の河川内の移動状況を月ごとに観察する予定である.放流前にカニの体サイズを計測し,採捕時の体サイズと比較して脱落成長の有無を確認するとともに,野外でのタグ脱落率も同時に推定する. 個体群動態モデルについては,引き続き関連資料の収集とモデル構築を進めていく.種内での競合を考慮した関数をモデルに取り入れて,個体群の安定性を調べる.また,生活史パラメータの感度も評価して,密度独立な行列モデルとの差異を明らかにする.1種の密度依存の行列モデルを完成させたのちに,2種の競争関係を取り入れたモデルを作成する.競争関係は同世代内・世代間などこれまで実験的に解明してきた関係性を取り入れる.過度に複雑な構造になると不確実性が高くなるため,チュウゴクモクズガニの侵入と定着可能性に関わる条件を検討しながら2種間競争のモデル作成を行う.モデル作成と同時に,2種の生活史に関するデータからパラメータ値を設定して個体群動態シミュレーションを行う.チュウゴクモクズガニの観測は原産地あるいは侵入地域の環境で収集されているため,日本の河川での変化を想定してパラメータ値を変更しシミュレーションを行い,個体群動態に与える効果を明らかにする予定である. 幼生飼育に関しては,国内でのチュウゴクモクズガニ抱卵個体の入手に依存するため,原産地中国の研究者の協力を得て,中国での繁殖・飼育の実現性を検討していく.同時に国内の抱卵個体の入手も続けていく.抱卵個体を入手できた場合は,実験室内でふ化させ複数の塩分濃度変動パターンを設定して,稚ガニまでの生存率・体サイズを計測し,在来のモクズガニ幼生との差異を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では,カニの標識放流・飼育実験および担当学生への技術指導のため,博士研究員を時間雇用する予定であったが,該当者が学内特別研究員として別事業で採用されたため,本研究での業務を翌年度に行うこととした.翌年度に当初計画通りの調査・実験を担当する博士研究員を雇用し,加えて論文作成等を担当する予定である.
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