研究課題/領域番号 |
18K05782
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
森阪 匡通 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (00422923)
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研究分担者 |
濱 裕光 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 名誉教授 (20047377)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イルカ / 体長推定 / 胴まわり / モニタリング / 保全 |
研究実績の概要 |
野生動物の体長や胴まわりといった情報は、生物学的に重要な基礎情報であり、個体の健康状態を表すバロメータでもある。個体群の各個体の痩せ具合や赤ちゃんの成長率などを継続してモニタリングできれば、栄養状態の悪化などの異常を早めに検出し、様々な保全対策を講ずることができる。ところが水中で自由遊泳中の野生動物の体長や胴まわりを体に触ることなく計測する方法は確立していない。本研究ではフィールドユースを念頭に置いた簡便で安価なシステムを構築し、非接触で野生イルカの体長や胴まわりを測定し、保全に寄与する技術の確立を目的としている。 2年度目において、体長推定に関しては、昨年度に引き続き伊豆諸島御蔵島周辺海域に棲息する野生のミナミハンドウイルカを3Dカメラにて撮影し、データを収集した。また5年分のデータの解析を行い、世界海棲哺乳類学会で口頭発表を行い、好評を博した。現在論文投稿準備中である。 胴回りの長さの推定に関しては、これまで様々な角度をベースに理論構築を行ってきたが、実際の使用では角度を用いることができないため、角度を取り除いた背びれ位置と体長で標準化した体幅の2つのパラメータのみから楕円の短径/長径の比(α)を推定する理論を確立した。イルカの背びれと胴回りに見立てた模型を用いた模擬実験によってその有効性を確認した。人工的に作成したデータを用いた場合は、誤差なくαを推定でき、歪みが小さい場合(αが1に近い)は、当初の数値目標である平均絶対誤差5%以下の精度でαを推定できたが、特に歪みが大きい(αが小さい)模型では誤差が大きくなるため、精度向上は新年度の課題である。 一方、新たな試みとして、光学ステレオカメラを用いて深度をリアルタイムに測定できるZEDによって、少なくとも小さい水槽で深度差が検出できたため、今後これを用いることで、胴回り推定等を劇的に改善する可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非接触体長推定に関しては、伊豆諸島御蔵島周辺海域に生息する野生のミナミハンドウイルカから本年度もデータを取得し、昨年度までのデータを合わせて国際海棲哺乳類学会で発表を行い、並行して論文投稿の準備を進めている。 一方、胴回りの長さの推定方法に関して、水族館のイルカ等での実証実験を計画していたが、角度のない状態での推定の理論構築に思わぬ落とし穴があり、手間取ってしまった。しかし、この経験を通して理論的な基盤構築ができたため、この結果をもとに特許申請を準備中である。提案手法は他に類を見ないものと考えている。 今後は、昨年度にできなかったチルトについても実験を進めたい。本年度は新型コロナウィルスの影響で御蔵島にてフィールド調査ができない可能性が濃厚であるため、水族館のイルカでの研究を中心に行っていく。 また、光学深度カメラであるZEDカメラで推定が改善される可能性を見出したことは、とても本研究に重要であると考えている。 このように研究は進んでいるところと遅れているところがあるが、全体としておおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
体長推定に関しては、10月ごろにドイツの国際学術雑誌Mammalian Biology誌のSpecial Issueへの投稿にエントリーしており、論文執筆を進める。 胴回りの長さの推定に関しては、チルト方向での模型実験を行い、どんな角度・方向・距離であっても胴回りの長さを推定できる方法を確立する。これをもとに、実際の水族館のイルカを対象として実測値と推定値の比較を行い、誤差がどのくらいかを調べ、誤差を減らす努力を行う。誤差は5%以内を数値目標とする。 これらをすべてMatlab上でプログラムを実装することまでを目指すので、上記をMatlab上で実現するように少しずつプログラミングの方も進めていきたい。 並行して、ZEDカメラの防水化と、実際に水中の模型を用いて測定を行い、このシステムの精度を調べ、上記と並行して用いることができるようなシステムを構築していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
水族館のイルカでの実証実験の前に、理論構築に時間がかかったこと、そして新型コロナウィルスの影響で、2020年はじめに予定していた水族館などでの実証実験が行うことができなかったことなどが理由である。本年度は新型コロナウィルスの影響が収まった後、特に水族館のイルカでの実証実験を増やし、研究を進めていきたいと考えている。
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備考 |
御蔵島村にあるお土産物屋「ふくまる商店」に、本研究の結果の一部の情報を提供し、御蔵島村観光協会の情報とともに掲載したコラボTシャツができた。
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