野生動物の体長や胴まわりといった情報は、生物学的に重要な基礎情報であるとともに、個体の健康状態を表すバロメータでもある。個体群の各個体の痩せ具合や赤ちゃんの成長率などをモニタリングできれば、栄養状態の悪化などの異常を早めに検知し、様々な保全対策を講ずることができる。ところが水中で自由遊泳中の野生動物の体長や胴まわりを非接触計測する方法は確立していない。本研究ではフィールドユースを念頭に置いた簡便で安価なシステムを構築し、非接触で野生イルカの体長や胴まわりを測定し、保全に寄与する技術の確立を目的としている。 最終年度にあたる本年度について、体長推定に関しては、これまで6年間で取得した108頭の個体の推定体長から本個体群の成長曲線を描き論文にまとめ、現在国際誌上で査読中である。 胴回りの長さの推定に関しては、長さの絶対値を推定するのではなく、水中計測に実践的に用いることができる、より簡便な肥満度を数値化する方法を開発した。ビデオカメラの光軸と垂直な方向に進みながら体軸中心に回転しているイルカの動画を用いて、胴回り(背びれ前方付け根を通る胴周囲)の切断面を楕円近似して、その縦横比α、画像上の横幅W、その幅の中心から背びれ付け根のずれ⊿を取得する。グラフW(⊿/W)(横軸:⊿/W、縦軸:W)は、αによって異なる放物線を描くため、グラフからαを求められる。このαがカメラとイルカ間の3次元距離の影響を受けるという問題を解決するため、新しくβ=W(k)/W(0)、(k=0.3~0.4)を導入した。W(0)は楕円の短軸の2倍(画像上の長さ)を表すので、βはW(k)を正規化したものと考えられる。この工夫により、3次元カメラを使用することなく動画像処理を用いて肥満度推定のためのシステム構築が可能となった。これらの結果は、国際会議で発表済みで、国際誌に掲載決定済みである。
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