三重県雲出川におけるコクチバスの侵入状況を把握するため,前年度まで未調査であった支流長野川において環境DNA調査を実施した。また,雲出川本流および支流榊原川においてコクチバスを採捕し,研究期間分の試料をまとめてコクチバス侵入地点3箇所における胃内容物分析を実施するとともに,侵入地点2箇所および未侵入地点1箇所において安定同位体比分析を実施した。 その結果,長野川の6地点中の最下流地点において種特異的分析およびメタバーコーディング分析の両方でコクチバスが検出された。3ヶ年による調査によって,雲出川水系におけるコクチバスの生息範囲はほぼ把握できたと考えられる。 胃内容物分析では,雲出川本流で77個体(St.2)と95個体(St.3),支流榊原川の1地点(St.4)で63個体を採集し,分析に供した。いずれの地点でも,コクチバスは小型個体は水生昆虫を主食とし,成長に伴って魚類へと食性を変化させたが,魚食へ変化する体長や遷移様式は調査地点によって異なった。安定同位体比分析では,およそ体長100 mm付近まで窒素同位体比が上昇し,その後は横ばいになることから,100 mm前後までに魚食性への遷移が生じると考えられた。また,St.2とSt.3において環境生物への寄与率を求めたところ,St.2では体サイズを問わずアユの寄与率が最も高く,その他の魚類の寄与率も概ね高い値を示した。St.3では小型個体はバッタ類の寄与率が最も高くなったが,中型,大型個体では魚類の寄与率が高くなり,成長に伴いアユの寄与率が上昇した。 コクチバス未侵入地点(St.1)と侵入地点(St.2)で共通して採捕された在来魚5種で安定同位体比分析による餌料の寄与率を比較したところ,底生魚3種は共通して侵入地点で付着藻類の寄与率が低下しており,これはコクチバスからの逃避により河床表面での摂餌行動が妨げられているためと考えられた。
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