2020年度には、2018~2019年度と同様に相模湾(江の島沖)沿岸域に設けた1定点において各月(新型コロナウイルス感染症の影響により4~6月を除く)2回の頻度で18回の船舶を用いた観測を実施し、物理・化学・生物特性(水温、栄養塩濃度、クロロフィルa濃度、ピコ・ナノ・マイクロ植物プランクトンの出現密度、一次生産速度)ならびに夜光虫Noctiluca scintillansの出現密度、細胞内栄養塩類含有量・濃度などの測定を行った。2018~2020年度に得られた結果より、本研究課題の目的の1つである栄養塩動態ならびに低次生物過程に対する夜光虫の影響評価を試みたところ、夜光虫が赤潮を形成するに至らなかったものの、高密度に出現した各年6~8月に上層(水深10 m以浅)で海水中の栄養塩濃度が一次的に上昇したか、あるいは海水中の栄養塩類濃度が低かったにも係わらず植物プランクトンの現存量・出現密度・一次生産速度が上昇した。さらに、本研究課題の主目的である(1)栄養塩プール、(2)一次生産速度、(3)物質循環(窒素・リン収支)に対する夜光虫由来の栄養塩の影響(寄与率)について、(1)は現場海域(水深0~50 m層)の(海水中+夜光虫細胞内含有)溶存態無機窒素・リン現存量、(2)は一次生産速度からレッドフィールド比により推定した植物プランクトンの窒素・リン要求量に対する夜光虫の排泄・滲出(溶出)による窒素・リン供給量、(3)は(1)と(2)の合計からそれぞれ定量的に評価することを試みた。その結果、夜光虫は、本研究期間中、特に出現密度が高く海水中の栄養塩類濃度が低かった時期に(1)~(3)のいずれについても高い寄与率を示し、またそれらは(同海域・期間中に他研究で得られた)マイクロ・メソ動物プランクトン群集の値よりも高かった。以上より、本研究課題の目的は概ね達成することができた。
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